賽
寝落ちと難産のコンボ技で、更新が大変遅れてしまい、申し訳ありません。
今日の分を書けるかは分かりません。ご了承ください。
「先輩ってほんとダイス運ないっすよねえ」
机に突っ伏した少女に、カードをシャッフルしながら彼は言った。
机の上には、きちんと整えられた十枚ほどのカードと二つの賽が置いてあった。
様々な能力や出来事のカードが並べられており、あからさまに強いカードがそろっているものの、"残機"と記されたカードの枚数を見るに、どうもゲームの中での彼女は死亡したらしい。
転がったサイコロは、どちらも上の面が1の状態で止まっている。俗に言う、一ゾロである。
古今東西のサイコロを使う遊びに於いて、1のゾロ目とは大きな意味を持つ。有利不利は遊びによって異なるが、二人のやっていたゲームでは、"致命的失敗"を意味する。
「というか、一時間装備カード厳選して、いざラスボス戦でコレって……」
「言わないで……私だって好きでこんな出目なわけじゃないのよ……」
顔だけを上げてそう言い返す彼女だが、その声に力はない。敗北回数は数え切れず、事実新入部員である青年も、既に三十回は部長である少女の敗北を見てきた。
「ふう。気を取り直して、残り時間は皆で出来るものにしようか。何かあったよね?」
彼女が声を掛けると、部室に居た者たちがゾロゾロと集まってきた。手に手に自分の賽を持ちながら、次々にあれがやりたい、これがやりたい、と声を上げていく。
うんうん、と部長は頷き、じゃあそれをやろうといってボードを引っ張り出してくると、一際大きな歓声が上がった。
大きな机を囲むようにして、十数人の男女がひしめき合う。文学系であるはずの部室の中では、しかし、運動部にも負けない熱が集まっていた。
「にしても、先輩ってなんでそんなに運が悪いんですか?」
時刻は十八時ほど。部活動も終わり帰り道、偶然同じ方向だった新入生が、部長に対して問いかけた。
「……ド直球で聞くね、君……」
「だって自分、こんな運が悪い人みたことないんですもん。気になりますよ」
「そりゃまあ、私より運の悪い人見たこと無いけどさ」
私に聞かれてもねえ、と腕を組む少女。きっとそういう星の下に生まれたのだろうとは思いながらも、彼女はそれを嘆いたことはなかった。
それもそうかと納得しかけた青年に、しかしふと思いついた様子の部長が、もしかしたらと言って、何気ない雰囲気のなか、悪戯する子供のような顔で笑った。
「私、サイコロの神様をぶん殴ったことあるんだよね」
彼女は冗談めかして言ったが、しかしその笑顔には、かすかな陰りが宿っている。
結局彼は、帰り道が別れるまでに、それが冗談だったのかを聞きだすことは出来なかった。