剣
「アドバイスぅ?」
日が傾いて空が赤くなり始めるころ、冒険者の集う酒場で、男は素っ頓狂な声を上げた。
男は鉄の鎧を着込んで、二メートルは優に超している大剣を背負い、ざっくばらんに切りそろえた髪をしている。
首からは太陽を模した黄金のプレートが提げられており、彼がもっとも最高位に位置する冒険者である事を無言のうちに物語っていた。
「はい。大ベテランの先輩からお話を伺いたいと思って!」
話しかけたのは、年若い女の冒険者だった。片手剣に、盾、皮の鎧――極々一般的な前衛だ。ただし、首に提げられたプレートは銀。中堅と言ったところだろう、とすぐに予想はつく。
「魔剣ねぇ。確かに、始めて買うとくりゃ不安だわな」
木製ジョッキに注がれた酒を揺らしながら、男は顎ひげをさする。
もっと若い頃――といっても、四、五年ほどか。初めて魔剣を買ったとき、男もずいぶん苦労したものだ。購入資金はもちろん、それ以外のことで酷く苦労してきた。
魔剣は強力無比だが、しかし、判断を誤れば全てがご破算になる。そのことを重々承知していた男は、よし、と言って若い冒険者の方へ向き直った。
「分かった、魔剣についてのアドバイスをしてやる」
「ほんとですか!?」
おう、と言ってから、男はジョッキから酒を一口あおり、それから指を一本立てた。
「まず第一に注意すべきは副作用だ」
「副作用」
男の言葉を繰り返し呟き、そしてふと、彼女は顔を上げてもう一度問い掛ける。能力や値段ではないのかと聞くと、男は深く深く頷いた。
「呪いで強くなってる奴なんかは、意味の分からん副作用があったりする。たとえば同姓に好かれやすくなるとかな」
そう言って一瞬、男は身震いした。一度、今ではきちんと魔剣の仕業だと分かり和解しているが、斥候の男がはいた気持ちの悪い台詞を、彼は一生忘れないだろう。
「振るたびに服が脱げるとか、水にひたすとふやけるとか、みょうちきりんな剣は山ほどある。高い金払った魔剣がそんなのだった、は嫌だろ?」
「はい。でも、それはどうやって避ければ……?」
避ける方法か、と小さく呟く。そういう方法は数多くあるが、そのほとんどはかなりの大金を要求してくる。彼にとってはもはやはした金に近いが、少女にとっては雲の上のような数字だろう。
「うーむ、店売りや出土品じゃなくオークションなんかで売買されてるのを買うのが一番手っ取り早いんだが……」
そこでふと、魔剣など夢のまた夢だったころに世話になった武器屋のことを思い出して、男は酒を飲み干しながら言った。
「信用できる店を見つけることだな。それが一番良い」
「……近道はない、ってことですか」
はぁ、と大きく溜息を吐いた女冒険者に、まあ飲めと男は酒を注いでやった。剣の道も同じようなものだろうと言いながら。