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アメノチハレ  作者: 秋月
13/33

 ぐちゃ、ぐちゃ、と汚い咀嚼音が当たりに響く。


 立派な角をたたえた鹿がその命を終え、血を流しながら、()()に食われているのだ。それは巨大な蛇だった。


 とぐろを巻いたその体長は、伸ばせばおよそ三十メートルにもなる。小山のような大きさの蛇は、今日始めて手に入れた餌を貪り食う。


 その巨体は牙と毒をもしのぐなによりもの武器だが、その代価として、必要な栄養は多い。常に何か食べるものを探して彷徨わなければならない程度には大量に必要だった。


 だからこそ彼には、森の覇者たる自信――あるいは、捕食者という自覚――があった。


 しかし、彼は気付けなかった。空から降りてくる、自分よりもずっとずっと巨大な影に。


 がしりと体をつかまれる。彼は驚きながらも、瞬時に身をよじり必死に暴れた。自分の巨体を単純に捕らえられ続けるものなど居ない。それが分かって居たからだ。


 しかし彼の予想は外れる。幾ら暴れても体は自由にならず、それどころか、力に引っ張られて上へ上へと上り始めた。


 自分を掴んでいるのが何者なのかと、身を捩った末に、蛇はその縦長の瞳に自らを捕食するものの姿を見た。


 ――それは銀の竜であった。


 自らを睥睨するその目は深い灰色の輝きを帯びていて、体中甲冑を彷彿とさせる鱗で覆われている。翼をはためかせて飛ぶ様は、自らが空の王だといわんばかりであった。


 竜が羽ばたく。恐ろしく重いはずの蛇の体は、ゆっくりと、しかし確かに陸から離れ始めていた。蛇はすぐに地面を諦め、竜に絡みつき始める。


 いくら鱗が硬いとはいえ中は肉だ。体を締め上げられ竜が呻く。そして、お返しとばかりにその爪を蛇の体へと食い込ませた。


 空の王者と陸の王者、互いに自らの持つ力の全てを相手へとたたきつけ、その身を食らわんとする。その戦いの最中、竜の羽ばたきが風を起こして森の一角をなぎ払い、蛇の尾が音を殴りつけて轟音を響かせた。


 およそ天変地異と言っても過言ではないそれは三日三晩続いた。




 最後に倒れ付したのは、蛇の方であった。奇襲と知るはずもない空中での戦いが彼を疲弊させ、それが勝敗を分けた。


 蛇は僅かに呻き身をよじるが、もはやその巨体を動かせるほどの力は残されていない。じきに動きは小さくなり、ゆっくりと止まった。


 竜もまた、締め上げられ尾で叩かれ、満身創痍の姿ながら、蛇の腹へと食らいついた。咀嚼音が辺りに響く。


 死んだ蛇の目には感情などありはしないが、しかし、深い理解の色だけがあった。弱い方が食われる。すなわち、"弱肉強食"への理解である。


 竜は自らの勝利を誇るように――そして、糧を得たことを喜ぶように、森中に響き渡る声で吼えた。

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