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アメノチハレ  作者: 秋月
10/33

探偵

 はい、昨日はすっかり書くのを忘れていました。申し訳ございませんでした。

本日は昨日分を含め二話投稿いたします。ご注意ください。

「所長……仕事、来ませんね」


 背の高い青年は、コーヒーを片手にぼそりと呟いた。事務所の中は彼と一人の老人以外おらず、どうにも繁盛はしていないように見えた。


 外はずいぶんと暗く、見れば鼠色の雲が空を覆っていた。今の所降ってはいないが、後一時間か二時間か――あるいはそれよりも早く、小雨程度ではすまない量が降るだろう。


 そんな中、所長と呼ばれた老人、ロバートは、青年の言葉から少し間をおいてから、ようやく煙草の火を消した。灰皿は煙草の吸殻でいっぱいになっていてロバートの愛煙家具合がいくらか見て取れた。


 茶色のトレンチコートに、時代遅れな帽子をかぶって、いかにも探偵然としたその姿。事実かなりの年数を探偵として生きてきた大ベテランである。


 彼は椅子の背もたれに倒れこみ、天井から垂れた明かりをまぶしそうに見つめながら、助手の質問に答えた。


「こなくて良いのさ、探偵の仕事なんてな。ろくなもんじゃない」

「身もふたもないことを……まあそりゃあ、ほとんど浮気調査とかですけど」


 緩慢に首を振ったロバートは、そうじゃない、と言って火の付いていない煙草を口にくわえた。探偵業を始めて何十年。すっかり年老いた彼の中には、一つの持論があった。


「探偵ってのはな、裏を隅々まで突き回すのが仕事なんだ。要らん事を穿り出して鬼って言われるぐらいにはな」


 だから、と彼は言う。


 しかめた眉の中には、人にとっては長い年月の中で蓄積した、悩みやら、迷いやらが幾つも詰まっている。


 事実、鬼と呼ばれたこともあった。悪魔だと、出て行けと銃を向けられたことさえ。ロバートがもっと助手の年のころの"真実"への情熱は、もはや心の底で燻るばかりである。


「探偵の仕事なんぞない方が良いんだ……せいぜい、猫探しぐらいで良い」


 そんなあ、と困り顔をする若い助手に、くつくつと笑ってやる。知らなくていいことを知る。その仕事の辛さを、彼の助手はまだ知らない。


 探偵を続けていくのなら、いずれ教えねばならないのだろうが――知らなかった方が幸せなこともある。今は助手の青年が、本気で探偵になると決めた、その時にだけ伝えようとロバートは考えていた。


「ま、警察の管轄外は俺達の仕事さ。たとえ猫探しだとしてもな……そら、お望みの客みたいだぞ」


 ロバートの会話を半ばで遮るようなタイミングでノックの音が響き、彼は苦笑しながら、助手に迎えるよう言う。青年は退屈から逃れたい一心でドアを開けた。


「さて、ご客人。ロバート探偵事務所へ何のご用かな?」


 いかにも探偵らしい態度でロバートが応対した。


 ――雨が降るより先に、仕事を終わらせるとしよう。そんな心持で。

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