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8 13歳7

「今日の料理も美味しいよ。この麺も変わってる。モチモチしている麺なんて初めて食べるよ」


 エドモンドが言うようにこの国で食べられている麺はスパゲッティだけだ。私が今日作ったのは【うどん】という食べ物だ。これもサラの故郷で作られている料理だ。

 身体強化を使ってパンを習っているときについでだからと言って教えてくれたのがうどんの作り方だった。うどんの麺を作るのは結構力がいるのでサラは食べたくなっても作ることができなかったらしい。その時は私が麺を作り、サラがうどんのスープを作った。

 久しぶりに食べる故郷のうどんの味にサラは涙を流して喜んでいた。


「異国の【うどん】という食べ物よ。まだこの国には伝わっていないそうなの」

「そうか。これは腹持ちもよさそうなのに残念だな。それにしてもアンナが作る料理は変わったものが多いな」

「料理の先生が優秀なのよ。作れるお菓子の種類も増えたけどエドモンド様は甘いものが苦手だって言っていたからうどんにしたのよ」

「ああ、最近はすぐにお腹が空くから料理の方がありがたいよ」

「きっと成長期なのね。兄様も何年か前にそんな風なことを言っていたような気がするわ」

「そうだとうれしいな。今はアンナと一緒くらいだけどできるだけ早くヘンリー様くらい高くなりたいんだ」

「兄様が目標なの?」

「だってアンナはヘンリー様が好きだろ?」

「兄様はとっても優しいもの。大好きよ」


 私は両親よりも兄が好きだ。いつのことだったか忘れてしまったけど、両親が私のことで話をしていた。私は両親の傍に座っていた。たぶん私がまだ幼くて話がわからないと思っていたのだと思う。その時は確かにわからなかった。ずいぶん後になってそのときのことを思い出したのだ。


「アンナは私たちとはあまりにも違うわ。このまま私たちの子として育ててもいいのかしら」

「そうだな。十三歳になる前に養子に出した方がいいのかもしれないな。跡取りはヘンリーがいるから問題ないだろう」

 侯爵家のことを思えば両親の判断は間違ってはいないのかもしれないが、あまりにも冷たい言葉だった。今でこそ私を愛してくれているように見える両親だが、まだ幼かった私を手放す相談をその娘の目の前でするほど私の存在を持てあましていたのだ。


「私は反対です。確かにアンナからはセネット侯爵家の血が感じられません。ですが確かに母様のお腹から生まれた私のたった一人の妹です。アンナはセネット侯爵家の娘なんですよ。養子に出すだなんて非道な真似はしてほしくないです」


 兄のこの言葉で私は救われた。兄が何も言わなければ私はどこかへ養子に出されていた。

 だから私はいつだって兄のあとをついて回った。そして兄の言う通りに生きてきた。エドとの婚約だって、酷いことを言われたから嫌だったけど兄が勧めるから了承したのだ。


「やっぱり私のライバルはヘンリー様だ。絶対に負けないからな」

「へ? ライバルって何を言ってるの?」


 エドモンドは時々変なことを言う。こういう時は私が困っていてもメイドたちも何も教えてくれない。ただ生暖かい視線で私たちを見ている。

 エドモンドが何を言いたいのか知っているのなら教えてくれてもいいのに……。


「もし私とヘンリー様が対立した場合、君はどちらを選ぶ?」

「選ぶのですか?」

「そうだ」

「でもお二人が対立した場合、婚約は解消されるでしょうから選ぶまでもないと思います」


 私の答えは貴族としては当たり前のことで間違ってはいなかったと思う。でもメイドたちの視線が私を責めているかのようにとがっている。

 そしてエドモンドもガックシと頭を垂れてしまった。


「あっ、でも二人が対立することがないように私が頑張りますから大丈夫ですよ」


 兄様もエドのことは気に入っているようだし、二人が対立するなんて思えないけれどエドモンドの肩に手を添えて慰める。


「そうか、頑張ってくれるのか。それなら今日から私のことは敬称ぬきで呼んでくれ」

「呼び捨てって、エドモンド? …って呼ぶの?」

「いやエドでいいよ。親しいものは皆そう呼んでいるから」


 兄様に聞かなくていいのかしら。さきほどの話と敬称抜きで呼ぶことの関連がよくわからないわ。

でもここで兄様に聞いてからとか言ったりしたら、エドモンドは拗ねるような気がする。どうしようかしら。うーん、エドモンドは婚約者だから構わないわよね。


「わかったわ。じゃあエド? これでいい?」


 私がそう呼ぶとエドは嬉しそうに笑い、さっきまでの落ち込んだ姿はなくなっていた。どうしてエドの機嫌がよくなったのかはさっぱりわからないけど、彼の機嫌がいいと私の心まで軽くなったような気がした。


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