66 ロックの長い1日ーロックside
ロックは自分のしたことが多くの人に影響を与えていることがショックだった。あの男がルウルウ風邪を人口的に作れることができるなんて知らなかった。だがただの借金の取り立てにしては条件が良い事には気づいていた。あれには口止め料も入っていたわけか。自分の馬鹿さ加減が嫌になる。
ロックは自分の魔法が犯罪に適していることを幼いころから感じていた。でもどんなにお金に困っても犯罪に使ったりはしなかった。両親がルウルウ風邪の薬が手に入らなくて死んだ。あの時自分の魔法を使えば手に入れることはできた。だが両親は絶対に犯罪に使ってはいけないと言った。今でもあの時の判断を間違っていたとは思わない。それが両親の願いだったからだ。
それなのに今回犯罪に手を染めようとしている。元々なかったものだからガルマダール子爵が表立って盗まれたことを憲兵に言うことはないだろうが、盗みは盗みだ。犯罪に魔法を使うことに躊躇いはある。だがこのままでは別の意味で犯罪者になってしまう。このままだと人殺しと変わらないではないか。
知らなかったとはいえあの男をガルマダール子爵のもとに連れて戻ったことにロックは責任を感じていた。
なんとしても成功させる。それだけで己の罪を償えるとは思えないが、それでも薬が手に入れば助かるものも多くいるはずだ。
「ロック、本当にやるの?」
サラが心配そうな顔をしている。プロポーズを承諾してくれたばかりなのに、こんなことになり申し訳なく思う。あの話を受けたばかりにサラと離れ離れになり、今度はこんなことに巻き込んでしまった。
「ああ、自分がしたことに責任を取りたい」
「知らなかったのだもの、ロックが悪いわけではないわ。貴方が引き受けなくても他の誰かがしたはずよ」
「そうかもしれない。だが俺の魔法でルウルウ風邪の薬が手に入って多くの人が助かるのならやりたい。本当は俺たちの両親だって助けたかったんだ…」
「本当に厄介な病気よね。いつだって私たちを翻弄するのだから」
ロックは確かに自分たちはルウルウ風邪に振り回されているなと思った。
「そうだな。いつかルウルウ風邪の薬が簡単に手に入る世の中になればいいな」
「…絶対に無事に帰って来てね。もう待つのは嫌だからね」
「ああ、心配するな。セネット家の家宝まで貸していただいたんだ。絶対に成功させるさ」
ロックはサラの頭を撫でて安心させた。サラの頭を撫でるのは幼いころからの儀式のようなものだった。
雨が降っているのは幸いだった。雨はいろいろなものを洗い流してくれる。
この雨もセネット家がしたことだと聞かされても驚かないなとロックは思っていた。
ガルマダール子爵家の屋敷にはいつもは警備する私兵がたくさんいるのにほとんどいないようだ。まさに計画通りだ。屋敷の中にもわずかな使用人しかいないはずだ。
セネット侯爵家とルーカス伯爵家の両方から夜会に招待されたため、私兵を引きつれて家族総出で留守にしている。とはいえ、油断はできない。
妖精が言うには使用人たちも主人がいなければさぼるはずだから大丈夫らしいが、そこまで上手くいくとは思えない。真面目な使用人がいないとも限らないではないか。
ロックは姿が見えなくても慎重に行動した。
だが妖精が言ったように大雨の中、真面目に警備する人はいないようで姿隠しの魔法すらいらなかったのではないかと思えるほど簡単に屋敷の中に入ることができた。
使用人たちは台所で暖を取っているようで大きな笑い声が聞こえてくる。
話していることは主人の悪口ばかりだ。日頃の鬱憤を晴らしているようだ。もしかしたらお酒も飲んでいるのかもしれない。
妖精から聞いたルウルウ薬の置いてある部屋の前にも誰もいなかった。部屋に鍵がかかっているとはいえ不用心ではないのか。まさか罠でもあるのではないか。
鍵を開けて中に入る時は、罠を警戒して上着を床に投げ捨てたが何もなかった。
「簡単すぎじゃないか?」
ロックは魔石の光で周りを伺いながら薬をマジック鞄の中に収める。薬の量が多くて時間がかかって冷や冷やしたが、見回りもなく実に簡単に手に入れることができた。
屋敷から出て行くときもまだ台所でのバカ騒ぎは続いていた。
きっとあの使用人たちは全員首になるだろう。だが自業自得すぎて同情する気にもならなかった。
しばらく歩いていると馬車が横に止まった。ビクッとした。屋敷から出たことで油断していた。
「ロック!」
その声はサラの声だった。よく見ると馬車の中にはアンナたちもいた。ロックは安堵の息をついた。




