57 17歳 11
「要するに二人ともすれ違っていただけってことね」
私が一言で片づけようとすると、二人からクレームが入る。
「すれ違いって、それだけで済まされるのはどうかと思うわ」
「そうだ。俺は待っててくれと置手紙を残していたのだから、居場所くらいははっきりさせておいてくれたら良かったんだ」
「なんですって。一行しか書かれていない置手紙一つで、いつまでも待ち続ける人なんていないわよ。それに貴族の厨房なんて堅苦しいところは一年が限界だったのよ」
正直、もうどちらでもいい気がしている。どう見ても相思相愛の二人のじゃれているとしか思えない口喧嘩に口を挟んだら、犬に蹴られそうだ。
だがフリッツとマリーから目で訴えられた私は仕方なく仲裁にはいる。
「ロックさん、そもそもどうしてサラを置き去りにすることになったのですか? 祖国からここまでずっと二人で冒険者の仕事をしながら旅をしていたのに、急に置き去りにされたサラの気持ちを考えたことがあるのですか?」
「そ、それは…依頼の内容は話せない。そういう契約だから」
「なるほど。それで置手紙しか残せなかったんですね」
「そうだ。本当なら会って話をしたかったが、急ぎの仕事でそれもかなわなかった。だが私が帰ってくるまでサラのことは面倒を見るとアイツらが約束してくれたから安心していたのに、他所の貴族の家に紹介した挙句、どこにいるのかわからないと言われて思わず殴りそうになったよ」
貴族を殴ったりしたら大変なことになる。ロックもそれをわかっているから相当我慢したようだ。
「貴族相手ならよくあることです。庶民には何をしても許されると知っているのが貴族ですから。少なくともサラにきちんとした仕事を紹介してるのだから、貴族でもマシな方だと思いますよ。それにそのおかげで私はサラに料理を教えてもらえて、今はこうして二人で店を持つことができたのですから、その貴族にお礼を言いたいくらいですね」
もしサラに出会っていなければ今頃どうなっていたことか。きっとセネット家からいただいたお金を食いつぶして暮らしていたことだろう。それどころか全部使って、お金の無心をしにセネット家を訪ねていたかもしれない。
私が今こうして暮らして言えてるのは、妖精のクリューのおかげでもあるけど、サラの助けがあったからだと思っている。
「お嬢さんとサラの店? サラに男はいないのか?」
「そんな人いませんよ」
「だがこれほどの店を出せるお金があるわけがない。まさかお嬢さんは貴族なのか?」
「以前は…。貴方もセネット家を訪ねたのなら知っているのではないですか? チェンジリングの話を」
おそらくロックがセネット家を訪ねたのは私が庶民として暮らしだしたころだと思う。だとしたら噂を聞いてないはずがない。
「そう言えば、ランバーク殿が言っていたな。庶民と貴族の子供が入れ替えられていたとか…、貴族として育てられていた子供はセネット家を追い出されたとか。その子のせいでもないのに酷い話だって…、ハッ、ま、まさか君がその子供なのか?」
ロックが目を見開いて私を凝視する。
「ええ、私がその子供よ。サラが私の家でキッチンメイドとして働いているときに出会ったの。彼女にはよくしてもらっているわ」
「そうかぁ。だから薬を手に入れることができたのか。でも十四年も育てた子供を追い出すような家だ。簡単にくれたとは思えないな。すまない。俺のせいで迷惑をかけた」
ロックは痛ましい顔で私を見た後、頭を下げた。
「私が頭を下げることでサラの大事な人を助けることができたのですから薬のことは気にしないでください。それよりもどうして二人がすれ違ってしまったかです。セネット家のメイドの何人かは、サラが屋台で商売をしている時からのお得意様なんですよ」
「えっ? それは本当か?」
ロックが驚いたよう見声を上げると、サラがそれに答えた。
「ええ、本当よ。いまでもこの店によく食べに来ているほどよ」
「じゃあ、アイツは俺に嘘をついたのか。俺は騙されたのか」
「アイツ?」
「コック長だ。サラが辞めたのは男ができたからで、その男とこの街を出て行ったと話してくれたんだ。その時彼のそばにいたメイドも頷いていたのに。まさかそれが嘘だったとは」
コック長はサラが作る料理を敵視していた。特に故郷の調味料であるマヨネーズを父が称賛したことで腹を立てていた。てっきりサラを追い出したことで溜飲を下げていると思っていたけど、まさかこんな嫌がらせまでしていたとは。男の嫉妬って本当に醜い。
「それでロックさんはサラを探すために旅をしていたのですか?」
「ああ、その男の故郷がこの街からそう遠くない街だって話だったから。はぁ、騙されているとも知らずに、馬鹿なことをしたものさ」
「でも男と一緒に出て行ったと聞かされて、信じたんですよね。それなのにどうして探したのですか?」
「そうさな。俺にもよくわからん。ただ伝聞だけじゃあ諦めがつかなかったのもあるし、サラが本当に幸せなのか確かめたかったのかな」
ロックは首を傾げながら、自分のことなのに他人のことのように話していた。
まあ、でもひとつだけわかったことがある。
ロックは結局のところサラを愛しているってことだ。




