56 17歳 10
私たちが店に行くとサラとロックのふたりは朝ご飯を食べていた。
ごはんとみそ汁と卵焼き魚の塩焼きというシンプルな食事だ。ちなみにみそ汁の具はエノキと里芋だ。
みそもサラの国の調味料で、味噌煮込みうどんをこの冬は売っていく予定だった。残念ながらルウルウ風邪の流行で店が休業中のため売り出すことは出来ていないけど、冬の定番になると思っている。
「もう大丈夫なの?」
私はサラに尋ねた。
「まだ少しダルそうだけど、熱は下がったわ」
「そう、良かったわね」
顔色も良くなっているみたいでホッとした。苦労して薬を手に入れたのだから助かってくれないと困る。
「君が薬を手に入れてくれたのか?」
ロックが食べている手を止めて私を見た。
「はい。良くなってくれて本当に良かったです」
「ありがとう。おかげで死なずに済んだよ。ところで薬はどうやって手に入れたのか聞きたい」
「知り合いから手に入れただけです」
「知り合いは貴族で間違いないか?」
「まあ、そうです」
「まだ手に入るのか?」
「いえ、一つだけだと言われたので無理ですね」
「まあ、そうだろうな。うーん、困ったな」
さして困っているようには見えない。でも一応尋ねる。
「どうかしましたか?」
「宿屋に帰るとうるさくなりそうだなと思って」
「明らかにルウルウ風邪になっていたのに急に治っていたら薬の存在を疑われるってことですか?」
「そういうことだ。私が今回宿をとった所はルウルウ風邪の温床になっていて、まあ、症状が出ていたのでそういう場所にしか宿をとれなかったんだが。誰もが手に入れたくて困っているからな。トラブルのもとになるかもしれん」
「それは具合が悪いふりで荷物を取りにいくしかないですね」
「はぁ~。やっぱりそれしかないか」
ルウルウ風邪の温床に行けるのは一度ルウルウ風邪になっている人が適任だ。私たちでは感染してしまう恐れがある。
「宿賃を払っているのならもう帰らない手もありますよ。それとも大事な荷物がありますか?」
「そんなに大事なものはないが、着替えもあるからな。あれを買いなおすお金を考えると惜しいな」
「もう売り払われてたりして…」
フリッツが不吉なことを言う。質の悪い宿屋だと一日でも待ったなしの所もあるらしいから、ないとは言えない。
「いや三日分の宿賃は払っているから明日までは大丈夫なはずだ」
「つ、杖は? 杖も置いたままなの?」
サラが尋ねる。杖ということは、ロックは魔術が使えるのだろうか。てっきり剣士だと思っていた。旅人さんの服装でも短剣を腰に下げていたのでそう思ったのだ。
「杖は使っていない。普通の旅には必要ないから邪魔なだけだ」
「普通の旅って、ロックは冒険者なのに何故旅をしているの?」
「何故だって? それを君が聞くのか?」
まるでロックが旅をしているのはサラが原因のような感じだ。サラはわけがわからないと言う顔だ。
「ロックさんはサラを置き去りにして去って行ったと聞いたのですが間違いないですか?」
仕方がないので私がロックに尋ねる。サラから聞きにくいと思ったからだ。
「置き去りって、人聞きが悪いな。確かにサラを連れて行くことは出来なかったが、待っていてくれと置手紙をしていたはずだ。サラの方が黙っていなくなったんだ」
「な、何を言ってるの? 全然迎えに来なかったのに私の方が悪いような言い方をして」
「そっちこそ誤魔化す気か? 男でもできて待ちきれなかったのか? この店だってそいつと出しているんじゃないのか?」
どうも話が違う。それにどっちも自分の方が正しいと譲る気はなさそうで話が進まない。
「ロックはサラのもとに帰って来たのですか?」
「当たり前だろう。俺は約束は守る」
約束って置手紙にそれだけしか書かなかったのになんか偉そうだ。
「どこに帰って来たのですか?」
「ああ、サラを頼んでいた貴族の所だ。あそこの厨房で俺が帰ってくるまで雇ってくれることになっていた。サラは冒険よりも料理を作る方が似合っているから、丁度いいと思ったんだ」
「その貴族の方の紹介でセネット侯爵家の方で雇われたことは聞いていますか?」
「ああ、それを聞いてすぐにセネット侯爵家に出向いたが、サラは辞めていた」
なるほどロックが訪ねた時はもう辞めた後だったのね。でも侯爵家のメイドもよくクレープを買いに来ていたから、サラがどこにいるかはわかっていたはずなのにどうしてこんな風に誤解しているのかしら。
「辞めていたって…私は一年近く勤めていたのよ。いったいいつ迎えに来たというの?」
「一年と少しだったかな。正直待っていてくれると思っていたからショックだったよ」
「あの、どうして探さなかったんですか? セネット家をやめているから待っていないって考えるのは早計でしょう」
私が不思議に思って尋ねるとロックが訝しげな顔になった。
「もちろん探したさ。もし男と一緒にいるにしても確かめないとって思って、ずっと旅をしながら探していた。まさか王都で店を出しているとは思わなかった。しかもこんな大きな店を…」
ロックの顔は少し寂しそうな顔をしていた。




