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54 17歳 9

 クリューの姿が見えないことは時々ある。クリューにも妖精としての生活があるようでたまにいなくなるのだ。なんとなく肩が寂しいけど、しばらくするといつものように肩の上に座っている。

 私がセネット家に薬の無心に行ったとき、クリューは確かに肩の上にいた。もし私一人だったら門番に直談判なんてできなかった。妖精であるクリューは何の役にも立たないけど、勇気だけは与えてくれる存在だ。

 でもあの日、クリューは途中からいなくなった。帰って来たのは次の日の朝だった。妖精の朝帰り。しかもクリューは二日酔いの状態だった。


『ああ~大きい音はたてないで~』


 私がパンを作るためにドンドンと音を立てると、キーキーと文句を言う。

 妖精が二日酔いになるなんて聞いたことがない。

 私はわざとらしくもっと大きな音をたてた。


『ひどい! アンナは僕がかわいそうじゃないのか?』

『二日酔いの妖精なんて聞いたことないわ。いったいどれだけお酒を飲んだの?』

『昨日は夜を徹して男同士の話をしていたさ。お酒の力を借りないと離せないこともあるからね』


 妖精でもそんなことがあるのか。よく酒を飲んで二日酔いになったジムが言ってる台詞とそっくりだ。


『まさかジムと飲んでいたの?』

『まさかぁ~、ジムと飲んだりしないよ~僕は安酒では酔えないからね~』


 クリューは安酒の匂いが嫌いだとかブツブツと呟いている。私からすればクリューから漂ってくる酒の匂いはジムの時となんら変わらない気がするけどね。

 私は朝早く起きて作った焼き立てパンを食べて、ご機嫌なジムは張り切って仕事に出かけた。身重のベラは起き上がるのも一苦労している。まだ生まれるまでしばらくあるのに、あれほどお腹が大きくなるなんて。妊婦さんと暮らすのが初めての私は戸惑うことばかりだ。

 そういえば出産はどうするのだろう。あんなに大きいのに大丈夫なのだろうか。




「はぁ? 出産は大丈夫かって? そんなこと男の僕に聞かれても困るよ」


 店へ続く道を歩きながら、尋ねるとフリッツが首を傾げている。その横でマリーが笑っている。

確かにフリッツに尋ねたのは間違いだったかも。


「心配しなくてもベラさんは五人目だから大丈夫よ。初産の方が大変だって話よ」


 マリーは母親の出産の手伝いもしたので、アンナの不安を取り除いてくれる。

 初産は大変だと聞いて、一番上の私が生まれた時は初産だったのだなと当たり前のことを思う。

 大変な思いをして産んだ子供は妖精のチェンジリングで取り換えられ、旦那から浮気を疑われたベラはどれだけ悔しい思いをしたのだろうか。


「母さんが子供をたくさん産むのはどうしてだと思う?」

「どうしてって、理由があるの?」

「父さんのためなんだ。父さんの居場所を作るためなんだって。初め聞いた時はよくわからなかった。僕たちを捨てていくやつのためにどうしてって思った。でも最近は何となくわかる。父さんはアネットが自分の子供じゃないのではって考えてたから、この家で居場所がなかった。だから自分の子供だって確信が持てる子供を欲しがったんだって。マルが生まれても不安は増すばかり。だから僕を産んで今度はアニー」


 自分で産まないから自分の子供だって確信が持てないのかな。だとしたらとても不幸だ。男の人も出産できればいいのにね。


「でも、もう居場所はあるのに。だってベラが浮気をしてなかったことは証明されたでしょ?」

「うん。今度は罪悪感で居心地が悪いみたい。アンナも悪いんだよ。いつまでたっても『父さん』って呼んであげないから」


 呼ぶのは簡単? そうでもない。いまさらって感じで、かえって呼ぶことができない。

 それに呼ばないのは私だけではない。


「なによ。フリッツだって私のこと姉さんって呼ばないじゃない」

「そ、それは…… なんとなく?」

「うん、私も同じ。今さら呼べないよ。照れくさいもの」

「そうだよな。なんかきっかけでもないと呼べないよな」

「フリッツは今がきっかけになるでしょ? ほらお姉さんって呼んでみてよ~」

「いや、どこがきっかけになるんだよ。こういうのは無理矢理はダメなんだからな」

「う~、フリッツがいじめる。マリー、助けてよ」



 私たちをマリーは生温かい目で見ていた。


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