49 17歳 4
炊き出しの日は朝から大変だった。
何故かジムとベラも来るといって聞かなかったからだ。
私としては来てほしくなかったけど説得されてしまった。アニーは幼いのでルウルウが感染する可能性を考えて家で留守番だ。一人だけ留守番することにしょんぼりしていたのでお弁当を作ってあげると変な歌を歌っていた。
「るすばん~楽しいお弁当~ルンルンルン」
アニーには音楽の才能があるのかもしれないとフリッツに言うと呆れた顔をされた。
でも小さな声で「姉馬鹿か…」っていうのが聞こえた時は嬉しくて思わず抱きついてしまった。フリッツにはすごく嫌がられたけどね。少しずつだけど姉と認めてもらえているようでニマニマしてしまう。
炊き出しを始めると多くの人が集まった。
無料でマスクの配布もしている。マスクは取らない人もいるし、何枚も持っていく人もいる。こんなことしかできないけど役に立てばいいなと思う。
私に治癒魔法が使えればと何度思ったことか。でもルウルウには癒しの魔法は効かないから同じことかもしれない。
「はーい、まだまだあるから遠慮しないでね~」
「うどんは熱いから気を付けてくださ~い」
フリッツは張り切っている。マリーもかいがいしく世話をしている。
ジムとベラがうどんをよそってくれているので、私たちは皆にいきわたるように配る係だ。列に割り込む人がいないかもチェックしている。同じ顔触れが何度も並んでいるが、そのことは気にしないことにしている。何度も並ぶのはまだ満腹になっていないからだ。私たちは今日だけは満腹になってほしいと思っているので、気づいても気づかないふりをしていた。
ところが一回並んでいた人がまた並んでいて騒ぎになった。
「おい、お前はさっきも食べていただろ。何度も並ぶんじゃねぇ」
別に一度だけしか並んでは駄目だとは言ってはいないけど、彼らなりのルールがあったらしい。とは言うものの暴力は駄目だ。体格だって大人と子供だ。大きな声で怒鳴られて、突き飛ばされた男の子はブルブルと震えている。
「お兄さん、子供をいじめたらだめですよ」
「俺が悪いんじゃねえ。そいつが何度も並ぶから注意しただけだ」
「でも暴力はいけません! さあ、貴方も並ばないとうどんがなくなりますよ」
私が男の腕をつかんで(身体強化を使っている)注意すると、男は舌打ちをして列に大人しく並ぶ。
この男もそんなに悪い人ではない。ただお腹が空いているから気が立っているのだ。
私は突き飛ばされた男の子を起こしてあげる。骨と皮? とても痩せている。
そして男の子からお腹の音が聞こえた。何度も並んでいるのにどうしてお腹が鳴るの? まさか食べていない?
「もしかして食べていないの?」
「お母さんが寝込んでいるから持って行ってたの。妹たちもいるから…」
それで何度も通っていたのか。私は男の子にうどんとおにぎりを渡すために、彼の家に案内してもらう。あそこでうどんを渡すともめるかもしれないと考えたからだ。
「お母さんは病気なの?」
「足を怪我してるんだ。それであそこまでは歩けないから…」
どうやらルウルウではないみたいだ。
でもこのままでは働き手のいないこの家族は栄養不足で亡くなりそうだ。
とは言うものの彼らだけを贔屓することは出来ない。
男の子の名前はラウル。春に父親が亡くなってから、ここで暮らすようになったと話してくれた。
ラウルに案内された家は家とは呼べないような屋根も崩れかけている所だった。
これでは真冬には凍死してしまうのではないだろうかと心配になる。
ラウルの母親も妹たちもうどんを美味しそうに食べていた。食器は回収するのことになっているので急いでいるようだ。
安心したことにラウルたち家族にルウルウの症状はなかった。私はラウルにもうどんを渡す。おにぎりとマスクもテーブルの上に置いた。
「おにぎり、こんなにいっぱい貰っていいの?」
「余っても困るからいいのよ」
「ありがとう!」
ラウルの母親の足の怪我はねんざのようだった。それもあと三日くらい安静にしていれば治るとのこと。医術師もいないのになぜわかるのだろうかと聞けば、ラウルの父親が薬師だったので母親も薬作りを手伝ったりしていたので何となくわかるそうだ。薬作りが手伝えるのなら、その関係の店で雇ってもらえるのではないかと尋ねると女だとやはり難しいらしい。
ラウルの母親は自分で作った湿布を足に貼っている。それを見ながらやるせない思いでため息をつく事しかできなかった。