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4 13歳 4

どうしてそんな話になったのかはよく覚えていない。

 パーティーの間は年が近いからか婚約者であるエドモンドの相手をしていた。いつもなら何とかして彼との会話を避けていたのだけど、自分がこの家の娘ではないとわかったからか緊張することなく話を聞くことが出来るようになっていた。


「…それで、って聞いているのか?」


「聞いていますよ。ご友人が婚約者から手作りのお菓子をいただいたのですよね」


 エドモンドの友人ということは貴族で間違いない。その婚約者も当然貴族だ。本当に手作りなのかは非常に疑わしい話だけど、そこは「すごいですね」と頷いておく。


「そうなのだ。それを会うたびに自慢するのだ」


 さきほどからこの話ばかり聞かされている。正直違う話が聞きたい。


『おい、同じ話ばかりで飽きたぞ。さっさと返事をしてやれ』


 クリューも肩の上で同じ話ばかり聞かされてうんざりした顔だ。


『返事?』


 返事と言われても困る。相槌以外の返事なんて思いつかない。


『わかっていないのか? この坊主は自分も婚約者から手作りのお菓子が欲しいと言っているではないか』


 そうなの? 全然わからなかった。はっきり言ってくれないと通じないよ。エドモンドの婚約者って、つまり私のことだから私の手作りの物が食べたいってことなの? 無理だよ。貴族の女性は普通に考えても料理なんてしないもの。私だってたくさんのことを学んでいるけど、その中に料理は含まれていない。


『クリュー、返事って断ることになるんだけど、どういえばいいと思う?』

『料理くらい作ってやればいいじゃいか』

『だって料理なんてしたことないもの。作れないわ』

『そうなのか? だが庶民は自分で料理ができないと食べていけないぞ。これを機会に練習したらどうだ?』


 なんと! 庶民は料理も自分でしないといけないらしい。今日は驚くことばかりだ。私は庶民として暮らしていけるのだろうか。とても無理な気がする。


『私、庶民になったら三日で死んじゃう気がするわ』

『……冗談じゃなく、このままだと生きていけそうにないな。でも本当の家族がいるんだ。きっと助けてくれるさ』


 本当の家族。私にとっての家族は今の家族だけ。違う家族なんて想像すらつかない。その家族にとっても突然現れる私は赤の他人に過ぎないのではないだろうか。クリューの言うように助けてくれるのか不安だ。何しろ私は料理もできないのだから家族のお荷物にしかならない。


『私、ここを追い出された時のために料理を習うことにするわ』

『そうだな。優しい家族のようだが、自分の家族じゃないとわかったらどう変わるかわからないもんな』


 少しだけクリューが寂しそうな顔をした。何か思うところがあるのだろうか。

 私はエドモンドを利用することにした。料理なんて普通なら習わせてもらえそうにないけど、彼のためだと言えば許される気がする。私たちの仲があまり良くないことにやきもきしている人たちもホッとするはずだ。


「エドモンド様、すぐは無理だけど私もお菓子を作るので食べてください」


 私は心持ち大きな声でエドモンドに返事をした。


「そ、そうか。それは楽しみだ。甘いものはあまり好きではないが残さずに食べることを誓おう」


 え? 甘いものが好きじゃないの? それなのにどうしてお菓子を強請ったりするのかしら。

 私の返事に兄が驚いたような顔で私を見ている。


「大丈夫なのか? 料理なんてしたことないだろう?」


 エドモンドが他の方に挨拶している時に兄が小声で聞いてくる。


「どうしても欲しそうなので仕方ありません。明日から特訓です」

「料理人に作らせたらどうだ?」


 兄の意見に首を傾げる。今までの私だったらこの話に飛びついていたと思う。でもそれでは駄目なのだ。


「婚約者であるエドモンド様を騙すのは嫌です。自分で作ったものを渡したいです」


 兄は虚を突かれたような顔で私を見たが、すぐに破顔した。


「そうだな。その方が喜ぶだろう」


 兄を味方にしたことで、すんなりと料理を習うことが決まった。

 貴族の娘が料理なんてと顔を顰めていた両親も婚約者であるエドモンドのたっての願いだと言うと渋々だったが協力してくれる。

 侯爵邸の厨房では邪魔になるので小さなキッチンまで用意してくれた。

 魔石で温度調節のできるオーブンまである。取り敢えずこれで料理ができずに死ぬことはないよね。


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