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45 番外編 風呂屋に行こう

 これは新しい家族と出会ってまだ日が浅い頃の話である。

 その頃の私はまだ何をすればいいのかわからないでいた。お金の稼ぎ方も知らず、庶民としてどう生きればいいのかさえ手探りの状態で、新しい家族とも上手くやっていけるか不安だった頃の話だ。


 生活魔法でお風呂に入らなくても清潔さを保つことができるけれど、やっぱりお風呂に入りたいなと悩んでいると、ベラが「今日は風呂屋に行く日ね」と言った。

 どうやら風呂屋に行く日は定期的に決められているようだ。

 私は風呂に入れると聞いて内心大喜びだったけど、顔には出さなかった。以前の暮らしと比較していると思われたくなかったからだ。

今は庶民の生活に慣れて、家族と仲良くなることが一番大事だ。

 風呂屋へは家族全員で揃って行っているらしい。風呂屋の場所がわからない私は皆の後ろをついていく。

 思っていたより結構遠い気がするので、湯冷めするのではないかと不安になった。

 私の不安をよそにアニーは歌いながらスキップしている。


「おふろ~、お、ふ、ろ~」

「お風呂ってそんなにいいもんじゃないよ。アニーは何が楽しいんだか」


 マルは呆れたような顔でアニーを見ている。マルは風呂が嫌いなようだ。

 庶民のお風呂は大きなお風呂にみんなで入るとクリューから聞いている。みんなとは家族全員で入るのだろうか? 

家族全員が一緒に入れるくらい大きなお風呂って、どんなんだろう。

 風呂屋に到着して、私は自分が勘違いしていたことに気づいた。

 家族で入るわけではないらしい。

 風呂屋は男女別で、女風呂は知らない裸の女の人でいっぱいだった。この時の私の気持ちがわかるだろうか。カルチャーショックでしばらく固まってしまった。

ベラは私を見て苦笑していた。もしかして私が驚くことがわかっていたのかもしれない。


「大丈夫?」

「…ははは、だいじょうぶ。だいじょうぶ」


 風呂屋に来て風呂に入らないで帰るわけにはいかない。覚悟を決めて風呂に入ることにする。

 風呂屋で良かったことと言えば、薄暗かったことくらいだ。これならみんなの裸もそれほど気にならない。


「…試練だわ」


 庶民として初めての試練だと思った。脱衣場から風呂場に移動するとなんとも嫌なにおいが鼻につく。


「薬草?」


 初めは薬草でも使っているのか思ったけど、この匂いは違う。何の匂いだろう。

 暗くてよく見えないので身体強化を使ってよく見えるようにする。

 

「…うっ、これは…」


 見てはならないものを見てしまった。風呂に浮かんでいるのは垢だった。しかもお湯は濁っている。このお湯の中に入ったら、奇麗になるどころか汚染されてしまう。下手をしたら病気になるのではないか…。もしかして薄暗くしているのは、これを隠すためなの?

 でも目が慣れてきたらこの汚さは一目瞭然なはずだ。

 どうしたらいいのか。あんなに楽しみにしていたのに、この風呂には入りたくない。

 ベラは私を見て困ったような顔をしている。私の考えなどお見通しなのかもしれない。

 ここで風呂に入らなかったら、いつまでたっても私は家族(庶民)にはなれないということなのか。どうしようか悩んでいたら、アニーが風呂に入ろうとしているのが目に入った。私は思わず生活魔法を使って掃除していた。ピカッと光って、一瞬でお風呂の中のお湯は奇麗になった。

 突然の光に皆驚いていたが、嫌な匂いがなくなったので喜んでいた。私が魔法を使ったことには誰も気づいていないのようなのでホッとする。

 それにしてもこの風呂屋は最悪だ。それとも庶民用の風呂屋ってどれも同じなのだろうか。

 奇麗になった風呂に入ってさっぱりした私たちは、風呂屋の外に出てマルとフリッツを待っていた。男の方が遅いってどういうこと?


「「ごめ~ん、待たせちゃった」」


 マルとフリッツが謝りながら風呂屋から出てきた。


「今日の風呂は奇麗だったから潜れたんだ~」

「途中までは汚かったのにピカッと光ったと思ったら、奇麗になってびっくりしたよ」


 マルは風呂が嫌いなのではなくて、汚れている風呂が嫌だったようだ。

 それにしても男風呂まで綺麗になっているとは思わなかった。女風呂とどこかでつながっているのだろう。

 これはもしかしたら健康のためにもお風呂の度に魔法を使った方が良いかもしれない。



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