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39 15歳 1

 早いもので貴族から庶民になって一年になる。

 『うどんとクレープ』の店は有難いことに半年たった今も、お客が途切れることがない。

 マルはギルド養成学校の寮に入学して頑張っている。

 ただその代わりと言って、あいつが家に帰って来たのは誤算だった。ジムは意外と策士だったらしく、マルを味方につけ男がフリッツだけでは危険だと言って家に入り込んだのだ。

 母に許されたわけではないので、マルの代わりにフリッツと一緒の部屋に住んでいる。母はまだまだ許す気はなさそうだけど、それも時間の問題ではないかと思う。

 だってなんだかんだ言っても仲がいいんだよね。妖精の取り換えっ子さえなければ、幸せな夫婦だったんじゃないかな。


『たぶんそれが気に入らなかったんだと思うな。幸せって壊したくなるでしょ?』


 クリューはあまりにも仲がいいから試練を与えたのだろうと言った。


『クリューったら、何ってこと言うの?』

『愛は試練があった方が燃えるものなんだよ』


 たまにクリューは訳の分からないことを言う。神様から試練を与えられるのと違って妖精に試練を与えられてもね。それも意味があるわけでもなく、ただのイタズラだ。


「ベラ、重いものは俺が持つから」


 そう言ってかいがいしく世話を焼くジムを見ていると確かに壊したくなるかもとか思ってしまった。


「じゃあ、行ってきます」

「おう、気をつけて行けよ」

「行ってらっしゃい」

「いってらっしゃい」


 フリッツと一緒に家を出る。フリッツはジムのことをどう思っているのだろうか。


「ねえ、ジムってちょっと鬱陶しくない?」

「そうかなぁ。いつもあんな感じだったから気にはならないよ」

「ベラにべったりなのは許してもらいたいからじゃなくて前からなの?」

「そうだよ。父さんは母さんにベタ惚れなんだよ」

「だったらなんで家出なんかするのよ。私には理解できないわ」


 私がそう言うとフリッツは苦笑いして、


「僕はわかる気がするな。好きな子が自分以外の人を好きだったら逃げたくなるもの」


と言った。フリッツは私より五歳も年下なのに、私よりずっと大人だ。

 肩の上でクリューがクスクスと笑っている。


「もしかしてフリッツも好きな子がいるの?」


 何となく尋ねるとフリッツの顔が真っ赤になった。どうやら図星だったようだ。

 学校のクラスメートだろうか。

フリッツはマルがいなくなってから薬草取りはやめて、『うどんとクレープ』の店で働いているので、出会いがあるとすれば学校か店しかない。そして店に来るお客さんはマルくらいの年齢の女の子はほとんどいない。

 うん、やっぱり学校だね。


「す、好きな子なんていないよ。たとえ話をしただけだろ」


 真っ赤な顔で否定されてもね。うーん、フリッツの好きな子かぁ。知りたいなぁ。





「はぁ? 知らないの? っていうかなんで気づかない?」


 一か月に一度の報告会の日にその話をするとエドに馬鹿にされた。

 報告会は定休日の日に行われるのでマリーの姿はない。フリッツにも休んでいていいよと言うけど何故かいつもついてくる。

 エドとは一か月に一度、この報告会の日に会っている。てっきり報告会もエドではない誰かが来るものと思っていたら、意外にもエドが必ず現れていた。


「えっ? もしかして知っているの?」

 

 どうして? エドはフリッツとそんなに会ってないのにどうして知っているの? まさか私に隠れて会っているとか?


「気づいていないのは、アンナさんだけよ」


 なんとサラまで知っているみたい。

 もしかして私が鈍いってことなのかしら。


「私だけ仲間外れなんてずるいわ。フリッツの好きな人は誰なの?」

「だからいないって言ってる」

「わかったわ。じゃあ、マリーに聞くから」


マリーが知ってるかどうかは分からないけど、知ってたらきっと教えてくれる。


「ば、ば、馬鹿言うなよ。絶対に訊くなよ。もしマリーにそんなこと言ったら絶交だからね!」


 絶交って……。うーん、絶交は困る。

 でも、どうしてマリーに聞くのは駄目なのかな?


「ねえ、どうして、マリーに訊いたら絶交なんだろう?」


 フリッツに聞こえないようにエドに小声で尋ねる。


「なんでわかんないのか、こっちが訊きたいよ」


 エドが呆れた表情で私を見る。ん? どういうこと?

 サラを見るとこれまた呆れた表情だ。

 え? なんで?

 


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