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34 14歳 22

 家まで馬車で送るというエドに、大丈夫だからと断って帰りを急ぐ。

 今日はいつもよりずっと早い。帰ったら手の込んだ美味しいものを作ろう。パンの在庫も少なくなっていたから、今日は食パンを作ろうかしら。そして明日はサンドイッチを作ってエドとサラに持って行こう。明日も開店の準備で店に集まることになっているので喜んでくれるだろう。

 なんだかとても楽しみだわ。

 浮かれた気分で家まで帰り、いつものようにノックをしてから玄関のドアを開けて家に入った。鍵はかかっていないので母がいるのだろうと思った。

 玄関のドアを開けたら台所と居間がある生活にも慣れてきたわ。初めはとっても不思議だったけどね。

 ところが目の前の光景はいつもとは違った。台所と居間があるのはいつも通りだけど男が立っていた。

 母やアニーの姿はなく、全く知らない人間だ。この人は誰なの?

 四十代くらいだろうか、茶色い髪をした細身の男だ。誰かに似ているような気がしたが、それよりも気になることがある。その男は白い袋を持っていた。あれはセネット侯爵家からいただいたお金が入っている袋だ。同じものを私も貰っているから間違いない。

 私の分はクリューに渡しているから、これは母が持っている分だ。

 ということは…この男は…。


「ど、泥棒!」


 私が呟くと男は目を見開いた。


「ば、馬鹿なことを言うな、お前こそ誰だ?」


 この男はしらをきるつもりのようだ。でもお金を持っている時点でアウトだ。

 私を騙そうとしてもそうはいかないわよ。世間知らずだけど泥棒については聞いたことがある。これはきっと空き巣だわ。

 鍵はどうしたのかしら。きっと母がかけないで出かけたのね。

 母は出かける場所が近いときは鍵をかけないで出かけるので、いつもマルに注意されていた。


「私はこの家の娘よ!」

「はぁ? 娘だと?」


 この家に住んでいる人の顔も知らないのね。やっぱり泥棒だわ。

 身体強化の魔法を使うことにした。人に対して使うのはエドと対戦して以来だわ。

 エドは私が身体強化の魔法が使えることを知ると、身を守るための戦い方を教えてくれたのだ。庶民にいつかは戻ることになると知っていたから、真剣に学んだ。それが役に立つ時が来た。

 うちの家に泥棒に入ったことを後悔させるんだから。


「そのお金は渡さないわよ!」


 近付いて男の腕をとり、くるっと投げ飛ばす。

 ズダーーンとすごい音がした。

 すかさず男の腕をひねりあげてお金を取り上げる。やったわ。明日エドに自慢できるわ。


「い、いた、いたたたぁ~」


 男は傷みで呻いているけど、ひねっている腕は外さない。このままへし折ることだって出来るのだ。……怖いからしないけどね。


「あなた」

「パパ?」


 玄関に母とアニーが立っている。

 え? あなた? パパ? ど、泥棒じゃないの?


「わ、わかっただろ。お、俺はこの家の主人だ。お前こそ一体誰だ?」


 男の腕を離すと、腕をさすりながら喚く。腰も痛いのか立ち上がれないようだ。


「お前なんかこの家の主人じゃない。出て行けよ」

「そうだよ。出て行けよ」


 マルとフリッツの声だ。母を押しのけて入ってきた。


「何だと! 俺が主人じゃなければ誰が主人だ! どいつもこいつも、育てた恩も忘れやがって」

「あんたに育ててもらった覚えはないね。どうせまたお金でもせびりにきたんだろ」

「あっ、このお金を持っていたわ」


 私が、お金が入った袋を見せると、マルの顔が歪む。母は頭を押さえて呻く。


「こ、これはあれだ。大金だから預けようと思っただけで、盗るつもりはなかったんだ」

「いつもあんたがいなくなった後はお金が無くなってるのに、信じられるわけないだろ」


 最低な父親のようだ。私が同情の目でマルを見ていると、


「言っとくけど、僕だけの父親じゃないからな。アンナの父親でもあるんだからな」


と言われてしまった。

 この情けない泥棒が私の父親? 受け入れたくない現実ってこういうことなのかもしれない。


「この娘が俺の娘だと? アネットはどこだ?」

「あら、あなたはいつもアネットのことを自分の娘じゃないって言ってたじゃないの。あなたが言ってたように間違いだったのよ。妖精が取り換えていたの。この娘があなたの本当の娘よ」


 母の言葉に父は私を見る。とても嫌そうな顔だ。娘に投げ飛ばされたのだからそんな顔になるのも分からないではない。でも嫌なのは私の方だと言ってやりたい。


「おい、腰が痛くて立てない。魔法で治せ」

「アネットと違って、そんな魔法は使えないわ」

「なんだと? 使えないやつだな」

「お互い様です」


 私の場合、親子の対面は抱きしめあうようにはできていないってことだけはわかった。


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