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20 婚約解消ーエドモンドside

「は? それはどういうことですか?」


 私の頭はおかしくなったのか。あまりにもあり得ないことに驚きしかない。


「エドが驚くのもわかる。だが言われてみればなるほどと思ったよ。アンナの容姿はあの家のものとは思えなかった。それに性格も違いすぎる。そこが気に入っていたのだが残念だ」

「妖精の取り換えっ子など信じられません。親戚の子を使ってアンナを廃嫡するつもりではないですか?」


 セネット家なら我が子を捨てることなど厭わないだろう。


「それは私も考えたよ。だが調べてみると本当のことだった。それに廃嫡するつもりなら十三歳のお披露目の前にしているだろう」

「そんな…ハッ、アンナは今どうしているのですか? あの家で肩身の狭い思いをしているのでは…」


 オロオロと心配する私を呆れた表情で父が見ている。


「庶民とわかった赤の他人を家に置いておくと思うか? セネット家は我々とは考え方が違う。十四年一緒に暮らしていようと血が繋がっていなければあっさりと手のひら返すだろう」

「そ、そんな。む、迎えに行かなければ!」

「駄目だ。もうあの娘はセネット侯爵令嬢ではない。ただの庶民だ」


 父の言葉は間違ってはいない。だがアンナは私の婚約者なのだ。助けに行って何が悪い。

 

「今見捨てればセネット家と同じではないのですか? アンナは私の婚約者です」

「それなら解消された。私は貴族の娘のアンナと息子のエドを婚約させたのであって、庶民とではない。セネット侯爵家でなくても構わないが、貴族でない娘との結婚は認めることは出来ない。わかったな」


 私も貴族として育てられたのだから父の言うことは理解できる。だがだからと言ってアンナを見捨てることなどできない。


「ですがアンナは世間知らずです。セネット家に見捨てられては死んでしまうか、変な奴に騙されて売られるかもしれません」

「そのことなら心配ない。本当の家族と一緒に暮らしていると報告が入っている」

「本当の家族? 父様、この話は昨日今日の話ではないのですね。いったいいつの話なのですか! どうして私には話してくれなかったのです」

「話す必要などないからだ。貴族の子供の婚約は親が決めるものだ。そうやって騒ぐのがわかっているから落ち着くまで話さなかったのだ」


 父の冷静な声には絶対的な響きがある。まだまだ私にはないものだ。当主としての威厳。

 時には冷徹に処理することも必要なのだ。わかってはいた。でもわかっていただけだった。

 私はたった一人の娘も助けることができないのか。


「それでアンナは大丈夫なのですね」

「うむ。なんとか生活しているようだ。普通は貴族から庶民になった場合、慣れるのに時間がかかるが、かなり上手くやっているようだ。元々の血筋が関係しているのだろう」


 それはどうだろうか。元々庶民だったと言っても生まれた時から貴族として育っていたのだ。急に庶民になど慣れるとは思えない。

 アンナは一年ほど前から変わった。前から貴族の令嬢とは思えないほどほんわかした雰囲気だったのだが、一年前から貴族の令嬢ならやらない料理を極めたり、上達しないセネット家ならではの魔法を諦めて、生活魔法に力を入れだした。まるでこうなることがわかっていたかのようだ。生活魔法も身体強化の魔法も料理も庶民として暮らす上で役に立つものばかりだ。アンナは自分が庶民の出だと知っていたのではないか。私と接するときの態度が変わったのも一年前だった。結婚することがないとわかったから、緊張しなくなったのか。だとしたら皮肉なものだ。元々出会った時から気に入っていたが、最近のアンナには惚れこんでいたのだ。彼女の料理は最高だったのに。そして私のことも恐れなくなっていた。このまま学院を卒業すれば結婚するだろうと思っていた。

 だがアンナは私とは違う考えだったようだ。無性に会いたい。そしてアンナの手作りの料理を食べたい。アンナの料理の何が美味しいのか。もちろんルーカス家のコックの方が料理の腕は上だ。では彼女の料理が異国の物で変わっているからか。いや、それだけではない。アンナの料理は私のために作られたものだったからだ。彼女の料理からは愛情を感じた。コックの料理にはない愛情だ。だから格別に美味しく感じたのだ。


「彼女も学院には通うそうだが、話しかけたりはしては駄目だ。それでなくとも彼女の存在は目立つのだから、かき回すようなことをすれば彼女の方が傷つくことになる。わかったな」


 父はこれが言いたくてアンナの話をしたのだろう。私は黙って頷くことしかできなかった。


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