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1 13歳 1

 十三歳の誕生日。

 私が生まれたことを祝うパーティーは盛大に行われるらしい。でも私の気分はすぐれない。

 家族の中で一人だけ違う髪の色。瞳の色も違う。栗色の髪に栗色の瞳。平凡な色をまとった私は家族とは似ても似つかない。

 父も母も兄も輝くような金色の髪に宝石のように美しい緑の瞳だ。顔立ちだってまるで違う。堀りの深い両親から生まれたとは思えない、彫りの浅い平凡な顔の私。昔から自分の顔が嫌だった。まるでよその子供みたいだと木の陰でいつも泣いていた。

 今日だって泣きたくてこの場所に来た。それなのに変なものに出会ってしまった。


『あれ? お前はあの時の赤ちゃんだ。へ~、まだこの家に住んでるのか。よく捨てられなかったな』


 黄色い頭をしたそれの背中には羽が生えている。母が読んでくれる絵本で見たことがある。


「妖精さん、それってどういう意味?」


 妖精は目をくるくるさせて驚いている。


『えーー? 君には僕が見えるの』


 黄色い頭をした妖精は不思議な顔をして私を見た。見えるかって聞かれても見えるよとしか言えないよ。はっきりくっきり見える。


「黄色い頭をした妖精さん、見えているし声も聞こえるよ。ねえ、私ってこの家の子じゃないの?」

『なんだ、まだ知らないのか。でも時間の問題だろ。だって君は家族とは色が違いすぎる』


 妖精にまで色のことを言われて、泣きたくなる。でもやっぱりなって気持ちの方が大きかった。


「そっかぁ、やっぱりね。両親の子供にしては容姿だけでなく魔法もあまり使えないのよね」

『そうなのか? 魔力はあるのに?』

「この家の子供は癒しの魔法が使えるの。怪我を治したりだけでなく、植物の成長にも役立つのよ。だから冬でも花が咲いて木々が青々しているの。妖精さんもそれでこの庭に遊びに来たのでしょう? もう秋になるのにこの庭の木々は枯れないもの。でも私には癒しの魔法は使えないの」

『ふーん、やっぱり時間の問題だな』

「そうね、でも時間いっぱいはこの家の子供でいるわ」

『そうなのか? 自分の親に会いたくないのか? それとも庶民だから嫌なのか?』


 妖精が意地悪そうな顔で尋ねてくる。

 私は庶民が嫌なのかよくわからない。でも自分が庶民だってことが妖精によって知ることが出来た。そうかあ、だから平凡な顔なんだ。庶民の暮らしってどうなのかも知らないのに、嫌なのかどうかわかるわけがない。

 でも今までとはまるで違う世界だということはわかった。父も母も兄もそこにはいないのだ。ぎりぎりまではこのままでいたい。私の願いはそれだけだった。


「庶民がどんなものなのかよくわからないのに嫌かどうかなんてわからないわ。私は今の家族が大好きなの。だから別れたくないだけ…」

『ふーん、本当の家族のことは気にならないの?』

「だって会ったこともないのに突然会いたくなると思う?」

『うーん、僕にはそのあたりのことはよくわからないな。ただできるだけこのままでいたほうがいいのかもな。貴族として暮らした君に庶民の暮らしができるとは思えない。もしバレたとしてもできるだけ貴族として暮らせるように頼んだほうがいい』


 頼むって誰に? 血がつながっていないのに私を助けてくれるの?

 それに私は庶民の子供だってことはわかった。じゃあ、この家の子供はどこにいるの?


「ねえ、もしかしてこの家の本当の子供は私の代わりに私の本当の家族と一緒にいるの?」

『そうだよ。妖精の取り違え子の話は聞いたことがあるだろう?』

「ま、まさかあなたが?」

『ち、違うよ。僕じゃなくて違う妖精だよ』


 慌てたように手を横に振ってるけど、本当かどうかなんてわからない。


「でもあれって妖精の子供と人間の子供を入れ替えるんでしょ? 私は妖精ではないわ」

『妖精にとってはそんなことはどうでもいいんだよ。自分たちが楽しければそれでいいのさ』


 酷い話だ。でも妖精は人間ではないのだから、考え方が違うのも仕方ないのかな。


「私はもう少しだけここにいたいわ」

『庶民にはなりたくない? 君の代わりに庶民として育ってる娘のことは気にならないの?』

「私の家族はお母様とお父様とお兄様だけなの。ずっと可愛がってくれて、急にそんな話をされてもどうしたらいいのかなんてわからない…うっ、うわーーん」


 その後はもう何がなんだか。とにかく泣いた。この場所には誰も来ない。私だけの泣き場所。いつもは大きな声など立てずにしくしくと泣いていたのに、今日は違う。大きな声で泣き喚いた。

 


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