05
目が闇に慣れ始めた頃、薄墨色の淡い空の時間が長くなってきた。
寒さも緩んで極夜の終わりも近いみたい。
静かだった屋敷や町にも少しずつ音が戻ってくる。
この世界には音楽なんてないのかと思っていたけれど、バイオリンのような音がする。
この世界の人は言葉なんて発しないのかと思っていたけれど、話し声も微かに聞こえてきた。
もしかして極夜に歌ったりするのは禁忌だったのだろうか。
この世界の信仰も知らないし冒涜したわけではないことは伝わっているだろうか。
少し明るくなった部屋でようやく、私は白いワンピースを着ていたのだということを知る。
そして扉が開けば私を毎日抱きしめてくれていた彼もまた、白いスーツを纏っていた。
彼の瞳と胸元に飾られている花は夜明け前の薄紫で、
差し出された花を受け取りお礼にキスを返せば、
予想通り、いつもとは違う愛情もプレゼントされた。
初めて聞く彼の吐息まじりの声は切なかった。
暫らく使ってなかった声帯から音を搾り出して、うわ言のように擦れた声で何度も何度もミワと呼ばれ
私の上で幾度となくのぼせ果てていく姿は水鳥のように美しく、舐めるような視線は艶やかだった。
気絶するように意識を失い、起きた時にはアパートの部屋に居た。
はだけた白いワンピースと降りそそがれたようなキスマークの痕もそのままに。