02
配達の兄ちゃんに予告されてから2日目、夜の8時。
彼女によく似たお母様がやってきた。
隣の部屋に人の気配があったので
彼女かもしれないと少し期待したものの、
ザ・和食!のような匂いがしたので
そろそろチャイムが鳴るだろうとは思っていた。
掃除はもちろん、ヨレたジャージでなどお迎えしない。
今日は柑橘系入浴剤を投入した湯船にも浸かって
きちんと好青年に見えるよう、襟のある部屋着を買ってきた。
申し訳なさそうに自己紹介される前に
配達の兄ちゃんから聞き及んでいることを告げると
少し肩の力が抜けたようで、メシがまだだと伝えると
案の定ザ・和食!な夕飯にお呼ばれした。
・・・・・!?
お呼ばれした!?
俺にとっての聖域といっても過言ではない夢のワンダーランド!
入りたいか入りたくないかで言えばそこに同棲したいの一択!
が!しかし!彼女がいない間に彼女の部屋に入るのはいかがなものか!
かと言ってよくわからん男の部屋に入るのも抵抗ないですか?と尋ねれば
ナマイキ盛りな息子もいるのよ、とうちの子の部屋より綺麗そうだし大丈夫だと部屋に上がってくれた。
一応玄関は靴1コ挟んで開けて紳士アピールも忘れない俺。
金目鯛の煮付け、酢の物、揚げだし豆腐、箸休めの浅漬け…
すべて美味しくいただきながら出身地や勤めている会社や、話せる程度の仕事の愚痴など軽い身元調査を受ける。
無害ですよアピールも完璧。
名刺にプライベート用のスマホの番号を書き込みお渡しする。
近所、というかこのあたりのスーパーやコンビニにも聞き込みしておくのでまた近いうちに連絡ください、と。
そう、俺には彼女が愛用しているPB商品から通っているドラッグストアがわかるし
少し遠いが安くて美味い惣菜店の場所もわかる!
バイト先や大学はわからなかったが彼女の趣味嗜好は多分彼女より詳しい!
ありがとうございますと目を潤ませお母様は彼女の部屋に戻られた。
眠りにつく前、ぴろんとメールが届いた。
こちらを見て笑う彼女の顔写真だ。
こちらこそありがとうございます!今夜は眠れません!と彼女の部屋の方角を拝み倒した。
***
写真という偶像を手に入れた俺は朝まで彼女を汚し続けた。
キリスト様だってだいたいペラい服で半裸なのだから
彼女の首から下だって半裸を想像しても仕方が無いと思う。
そして想像すれば箱ティッシュが減るのも世の男どもならご理解いただけるはずだ。
だらしのない顔を隠すために花粉症のフリをして部屋を出る。
お母様が見送りに出ていらした一瞬だけ顔をつくってマスクを外す。
好感度を上げるスキがあればあげておくに越したことはない。
将を射んと欲すれば、というやつである。
もちろん今日から定時で帰って周辺の聞き込みを開始する。
俺が本当に射んと欲するのはお母様ではなく彼女なのだから。
池内美和子(21)
市立大学の教育学部在学中。
あんな可愛い先生が居たら皆勤賞だっただろう。
そして褒めてもらうというピュアな願いのためだけに
心血注いで勉強に打ち込んだはずだ。
身長は155cm前後で抱きしめたら折れそうな細身体型、
いつもかかとの低いパンプスかスニーカーを履いている。
髪は昨年末、少し明るめの栗色に染め直していた。
そうかあれはバイトを辞めたからか。
艶々した天使の輪が本当に天使に見えて
年末の繁忙期でささくれ立った俺の心を癒してくれた。
この1ヶ月、連続殺人のようなことは
この街どころかこの日本でおきてはいない。
アポ電というような詐欺犯罪でターゲットの年齢層に彼女は該当しない。
ワゴン車に連れ去られる際、荷物がバラけて通報があったというような話もない。
となると、自発的な家出、失踪になるわけだが理由がわからない。
なぜ、どうしてそうなったか、結果に行き着く前の過程を調べる。
俺は俺の知らない彼女を知り、彼女のすべてを手に入れようと思う。