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01



 どうやら隣人が失踪したらしい。



 今どき引っ越したからといって

 タオルや調味料片手に挨拶する文化は俺には無く

 古いドラマの中だけだと思っていたし


 まさかパステルカラーの小さな袋を持った女性から

 有名店のものであろう焼き菓子を微笑み手渡される日があるとは


 夢にも思わないじゃないか。



 息を潜め彼女の生活音に癒されていたこの1年。

 これといって何か進展があったわけでもなく、

 エレベーターの前で会えば会釈をする程度だったが


 纏まった休みが取れて実家に帰省すること1週間。

 久々に戻った部屋はどこか陰鬱で窓を開けて様子を窺う。

 もちろん隣の部屋を、だ。



 隣の部屋は静まり返っていた。

 もしかしたらお隣さんも

 帰省するタイミングだったのかもしれない。


 近くのスーパーで食材を揃えたり、

 社用の携帯メールをチェックしながら

 明日からの仕事に備えた。


 ***


 気だるい日常に戻って2週間。

 そろそろ4月も目前だが、

 お隣さんはまだ帰ってきた様子はない。


 鍵を回して扉の軋む音、

 部屋の電気を一通り点けてから響くBGMと

 耳を澄ませば聞こえてくる歌声。

 元々音楽にはこだわりがなく疎かったのが

 ジャズに関しては少し詳しくなった。


 窓を開け、冬のキンと冷えた夜空に

 とろりと溶けるよう密やかに歌っていたスターダストは

 思い出すだけでキュンとして身悶えてしまう名曲だった。

 俺もやさしく抱きしめてキスしたい!と何度も叫びそうになるくらい

 あのウイスパーボイスは録音しておけばよかったと今でも後悔している。


 宅配便の不在票を片手に受け取り連絡をし、

 シャツを洗濯機に入れ、シャワーをし気楽なジャージに着替え

 ビール片手に炒めものが出来上がった頃、

 部屋のチャイムが鳴った。


 汗を流した後に、汗水垂らして働いているコと

 正面から顔を合わせるのは少し申し訳ない気分になる。

 届いたのは実家から届いた比較的日持ちのする根菜。


 4年以上世話になっている顔見知りの配達員の兄ちゃんだったので

 無駄足ふませたお詫びにコンビニの袋にいくつか野菜とビール1本添えて渡した。

 この1年で俺にもそういうちょっとしたお裾分け精神が身についたのは

 誰の影響か言わずもがなというやつだろう。


 

 そして青天の霹靂というやつが俺を襲う。


 

 配達の兄ちゃん曰く、

 俺の愛してやまない隣人が失踪したらしい。


 彼女の実家からも宅配物がありポストに不在票を何度も突っ込んだが

 連絡は1度もなく、とうとう送り主に返送する段階になって発覚。


 ご家族に連絡はないし、在学している大学に連絡を取り

 彼女の友人たちにも協力してもらって

 メッセージを送ってもらったものの誰にも返信はない。

 バイトも12月を最後に辞めているし、

 大学も春休みに入っている。

 

 いつ消えたのか明確な日にちがわからないが

 行方不明者届を提出したのは最近で、

 そしてこのまま戻らないなら

 大学はひとまず休学ということになるらしい。



 「就活も控えてる時期に痛いですよね~~」



 おい、兄ちゃん。何故そんな事まで知っている。

 大学生ってこともバイト云々も何も知らなくて

 心の底から嫉妬しか湧きあがらない。

 俺もどうにか配達員に転職したくなるぞコラ。

 


 「部屋もこのまま半年契約継続で

 そのうちご両親が訪問されるかもしれないんで

 その時は話聞いてあげてくださいね~~」



 やたら詳しいなオイ!

 言われなくても茶菓子用意してもてなすわ!

 甘いものもしょっぱいものも揃えて

 最高級玉露も用意するし!

 とは叫べないので適当に返事して兄ちゃんを帰した。



 しかし、ご両親様と対面しても彼女に関する情報はこれといってない。

 いや、あるにはあるが、開示できるようなことがない。


 彼女が使っているシャンプーや柔軟材の種類

 ベランダに干されている服や慎ましいサイズの下着

 捨てられた古紙から愛読している雑誌や

 友人と行ったであろう旅行会社の冊子

 好んで食べているであろう購入頻度の高い惣菜…


 

 失踪というかコイツが誘拐犯です!と俺でも疑いたくなる俺の生き様。

 盗聴器とか仕掛けてなくて本当に良かった。

 夜な夜な通販サイトでカゴに入れるかどうか迷いつつも

 ボタンをポチらなかった俺を全力で褒めてやりたい。

 

 でもGPSは買っておけばよかった。


 ちっちゃい後悔をしつつ、彼女の両親が現れるのを待った。



数話でさらりと終わりますよ(ノ´∀`*)

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