既視感
「アリシア 今日からお前の妹になるエリーゼだ。良くしてやってくれ。」
「初めまして!お姉さま。エリーゼと申します。よろしくお願いします!」
そう言って目の前の少女は笑ってお辞儀をした。
遂にこの日が来たなと私は思った。私の父と本当の母は家同士の政略結婚とやらで不仲だった。いや、不仲というのは語弊があるかな。母は父に歩み寄ろうとしていた。でも父がそれを拒否して母は心を病んでしまった。
父には別の人を愛していた。政略結婚だった為泣く泣くその人とは別れたらしい。私は思う、それでも少しぐらい母の気持ちに応えてあげても良かったんじゃないのかって。まあ今更遅いけど。私に対しては血のつながった娘だからなのか親としての責務を全うしようとしているだけか…。おそらく後者だろう。
そして私の目の前にいる彼女。彼女は父が愛していたっていう人の娘だろう。彼女は父に似ている。そして、はっきり言うと私は父を心底軽蔑している。何たって彼女と私の年齢差は見るからに2.3歳くらい。つまり父は私が生まれて落ち着いた頃に彼女が見たことのない女性との間にできてしまったというわけだ。そのころから家に仕えている使用人に聞くと、そのことについて少々もめたらしい。他の女性を娶りたいとか、娶りたい女性との間に子供ができたとか。その後母が病んでしまい、遂に6年前に亡くなっってしまった。というかこのくだり前も何回かあったような気がするけど気のせいかな?
「アリシアです。よろしくお願いしますわ、エリーゼ。それにしてもお父様、彼女は養子でしょうか。養子にしては随分と似ていますが。」
取り敢えず話の矛先を父に向ける。彼女はまだいいとしてお父様にはちゃんと説明してもらわないと。
「え!?えーと… 似ているから養子にしても問題ないだろうと思ってな…。そ、それにお前ひとりだけだと寂しいだろうと思って…。」
完全にどもってたな、それに何その理屈。隣で不思議そうにしている彼女の様子だと事情も何も知らないのだろう。だがこの後説明かなんかが父からあるはずだ。
「…そうですか。他に用はありませんか?無いのなら私は退室させていただきますけど。」
「あ、ああ。話はもう済んだから退室していいぞ。…そうだ、良かったらエリーゼに屋敷を案内してくれないか?これからは家族なんだし、これを機に仲良くなってほしいと思うんだ。」
めんどくさい。大体そんなもの使用人に任せればいいものを…。ま、口には出さないけど。
「わかりましたわお父様。さあエリーゼ、案内するからついてらっしゃい。」
「ハーイ!」
バタバタ
部屋に控えている使用人たちが眉をひそめた。
あぁ…そんなに音を立てて走って… 淑女教育をするとなったときに直るといいんだけど…。大丈夫かなぁ不安しかない…。
「ここが中庭よ。庭師が毎日手入れしているからきれいでしょう?自慢の庭なの。」
「へぇー とっても広いんですね!」
「ええ。」
こうして話している分には悪い子に見えないけど、用心しておくに越したことはない。
そこに…
「アリシア様、妹君と一緒でしたか。」
「あら?アディスじゃない。」
そう言って現れたのはアディスだった。彼は物心つく頃から一緒にいる幼馴染で、夜の世界では有名な暗殺者だ。いつも傍にいるので従者みたいだが、雇っているわけではない。ここ大事。
「あのっ 初めまして!これからお世話になる、エリーゼといいます!」
「…あぁ、貴方が… アディスです。」
相変わらず私以外に愛想も減ったくれもないね。それに彼女は気付いてないようだけど見定めるような目というか、警戒しているような目というか… 彼女に何かあるの? まぁいいか。後で聞けばいいし。
「アディスは確かこれから仕事があったのではなくて?」
「あ、すみません。忘れてました… では。」
暗殺の仕事が入っているのは昨日聞いたのに言った本人が忘れているなんてな。最近すごい隈出来ていたし何かあったのかな。
「お姉さま、先程のアディスという方はどなたでしょうか?それにあの人にどこか見覚えがありますの…。」
「彼のこと?彼は私の幼馴染なの。あまり大きな声で話せないけど有名な暗殺者でもあるのよ。」
「そうなんですか!それで思い出しました!彼とは夜の路地裏で会ったことがあるんです。確か私が庶民だったころの話なんですが、別の人と間違われてしまい殺されかけたところを助けてもらったんです!あの時はお礼も言えずにどこかへ行ってしまいましたけれど。」
そう言ってへへっと笑う彼女を見て珍しいと思った。普段彼が目の前で誰かが殺されそう死にそうでも私以外は助けようとしない。もし助けたとなるとたまたま機嫌がよかったのか目的があってなのかという二択に限る。おそらくその時機嫌がよかったのだろう。それでも何か引っかかるな?何だろう…。