第97話 ルミナの質問
「ち、違うかもしれませんし!」
「まぁ、それなら許せるってもんでもないがな」
あの日の苦労は忘れていない。何れにせよ犯人と会うことがあれば思い知らせてやろうと心に決めている。
「さて、改めて言うが、俺があんたに教えられることは何もねぇよ。少なくとも今のところはな」
「そうかね。まぁ心当たりが無いと言うのならやむを得まい。出直すとしよう」
エドガーはそう言うと、腰掛けていた椅子から立ち上がる。
「そうそう、俺もあんたに聞きたかったんだ、道中は礼儀作法の件もあって聞きづらかったからな」
王都へ来るまでの道中、講義だけには留まらず、話しかければ事あるごとに礼儀作法の注意が飛び出して、正直鬱陶しかった。そのせいで、よく注意される、俺と姉さんとリユゼルの三人は必然的にエドガーに話しかける回数が減って行った。
あれではリナリアは育たない、と言うのが俺達三人の総意である。当の本人であるリナリアは何か言いたげだったが。
「何かね?」
「王様ってのはどんなやつなんだ?」
「心根の優しい穏やかな御方だよ」
平時であればそれは単なる褒め言葉だが、今は非常時だ。とても褒め言葉には聞こえない。王室の権威が落ち、各地で問題が起こっている今、それでは役者不足だろう。
「勘違いしないでくれたまえ、今のは純然たる褒め言葉だよ」
「それはどうだか」
エドガーの表情は読めず、それが本心かどうかはわからなかった。
「私からも一つよろしいですの?」
「なんだ、居たのかね」
「ええ、少し用事がありますの」
タイムの奴がビクリと肩を震わせる。
そう言えばクロッカス商会で腕輪の中が汚いとか言ってたな。
「話したまえ」
「どこかで四剣がやられたと言うのは事実ですの?」
「ギルドに行ったのではなかったのかね?」
「話してくれそうな方がいらっしゃいませんでしたもの」
確かに、ルミナの言う通りカーネリアは自身の職分を弁えていそうだった。恐らく尋ねたところで職域を超える領分の話は絶対にしないだろう。
忘れていたわけじゃない、けして。
「それを私なら話すと思われるのは少々心外だね」
「私もあなたに話さなくても良かったことを教えて差し上げたのです。これで対等というものですわ。ご安心ください、ここにいるものは……。タイム、少々席を外してもらえませんこと?」
王都までの道中、エドガーに請われ、ルミナは自分のことをいくらか話していたようだ。恐らくはそれの事だろう。
「話しませんよ! 失礼な!」
「まぁ良いだろう。既に城下では噂に上っている。今更君達に言ったところで大勢は変わるまい。それは事実だ。既にギルドマスターが確認済みだ」
肩を怒らせて反論するタイムをよそに、エドガーがルミナの質問に答える。
「そうか、転移が使えるんだったな。それで、アルカイドかアリオトの奴でも居たのか?」
「そこまではわからない。話しによれば、いつまでも帰らない四剣のパーティーの様子を見に行った冒険者は、その死体だけを目撃したそうだ」
エドガーは、そう言うと俺達に背中を向ける。
「気をつけたまえ、君達は何かと彼らから恨みを買っていそうだ」
「お前も対して人のこと言えないだろうが」
小さく笑いながらエドガーそのまま部屋を出ていった。
エドガーが部屋を出ていった後、俺はベッドに仰向けに寝転がる。使用人の部屋とは言え、ベッドも中々高級品らしい。その辺の宿とはものが違う。
「爺、また爺か、死んでからも忙しないことだ」
今もまだ爺の仕事を押し付けられてるようで、どこか気だるさを覚えながら俺は瞳を閉じた。




