第96話 仇敵
「どうしてこうなった」
その日の夜、みんなが寝静まった頃、エドガーが俺にあてがわれた部屋へとやってきた。
国王から下賜されたとは言え、俺の部屋は使用人用の物だ。椅子に机、それにベッドと必要最低限のものしか無く、さほど広くもない。多少驚かされたのは、窓にガラスが付いていたことくらいだろう。あれは中々に高価で、一般市民がそうそう手を出せるものではないからだ。
そんな対して広くもない部屋で深夜に男が二人。あまり気分の良いものではない。
「それで何の用だ? まさか世間話をしに来たわけじゃないんだろ?」
「いいや、世間話をしに来たのだよ。君のお爺さんの話をね」
「どうしたんですか突然。でも私もちょっと聞いてみたいです」
エドガーの発言にタイムが同調する。エドガーがこんな事を言いだした理由は何となく見当がつく。婆さんがあんな思わせぶりな言い方したのだ。その場にいた人間の縁者から当たっていくのは、何ら不思議な事ではない。
特に爺の魔術陣は狂ってるとパニカムじゃ評判だからな。とはいえ、
「あんたが興味を示しそうな話は知らないな。爺は自分のことをあまり話そうとはしなかったからな。俺が知ってんのは爺に仕込まれた魔法陣やそれに関する知識くらいだよ。あんたが知りたいのは婆さんがさっき口にしてた件についてだろう?」
「それはそれで興味が無いと言えば嘘になるがね。まぁ今日尋ねたのは概ねその通りだ。サリッサ殿の何かを含むような物言いは君に向けられていたものだと思ったからね」
「だろうな」
俺がぼんやりと感じていたことを、やはりエドガーも感じ取っていたらしい。
「あれ? でもサリッサさんは知らないことは知らないでいいって言ってましたよね?」
タイムの疑問に、俺とエドガーは顔を見合わせた。
「あれがサリッサ殿の本心なのは間違いないのだがね。知っていることや知っているはずのことを有効活用できないやつは屑だ、と言って憚らない人間でもある」
「まぁあの婆さんの場合、知っていることを有効活用して集りに来るからタチが悪いわけだが」
「……最悪じゃないですか」
「まぁそんな婆さんが珍しく饒舌に仄めかしたんだ。少なくともあの場にいた誰かは確実に知っているはずなんだろうよ。……まぁほぼ間違いなく俺に対してだろうがな」
だが生憎と本当に心当たりがない。残りの精霊を見つけるにしたって何ら手がかりもない状態である。それ以前に、現状はただただ状況に流されているだけと言える。
こうなると、爺が遺した物をほぼまるごと盗まれたのは本当に……。
「もしかして、爺の遺品を盗んだのは一連の事件の首謀者なんじゃないのか?」
「君の祖父が何かしら対策を練っていたと言うのであれば、その可能性は高いだろうね。まぁこと此処に至っては今更なことだ」
俺のつぶやきに、エドガーが呆れたように言葉を返す。俺は何も言い返せず、ただただ押し黙った。




