表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/162

第95話 郷愁

「誰がババァだい! あんたいい加減にしないと庭に吊るすよ?」


 ソファーに腰を下ろしたサリッサの正面にはエドガーが座っている。


「と言うかエドガーと知り合いだったのかよ……」

「お忘れですか? エドガーさんはパニカムギルドのギルドマスターですよ?」

「なるほど……なるほど? いや、待てそれはおかしい」


 つい納得しかけたが、どう考えても理屈に合わない。聞いた限りババアはあくまでも部外者である。ギルドマスターだからと言って誰もが知っているという理由にはならない。


「えっ、まさかそんなにお金を無心しに来てるんですか?」

「あいつの身内はどうしてこうも失礼なやつばっかりなんだろうね。単に私の顔が広いからだとは思わないのかい? いや、待ちな。今のは拍車をかけそうだね」


 ババアが先手を打った。俺としても、そんなに誰も彼もから金を無心してるのか、と考えたので否定はしない。


「彼女は希少なハイエルフだ。彼女の持つ知識には有益なものが多いのだよ。時折こうして教えを請うほどにね」


 そんな折、エドガーが横から助け舟を出してきた。


「そう言えば以前なにか言ってたな。禁呪を用いて世界を滅ぼそうとした魔王がいたとかなんとか。なるほど、情報源はババアか」


 確かに実際に生きていた人間から聞く以上に確かなことはない。ボケていなければだが。


「あんたまたなにか失礼なことを考えてるね? 言っとくけどあんたが考えてることなんてお見通しだよ。私はまだそんなに耄碌しちゃいないからね」

「残念ながらそれは別の話だね。彼女からではない。サリッサ殿も当然ご存知とは思うがね」


 そう言って、エドガーは皮肉交じりにババアに視線を送る。ババアはそれを鼻で笑った。


「私は知らないことは知らなくていいと思ってる側の人間だからね。平和な時期が長かったせいか、この世界の人間の魔導技術はあの頃と比べ随分下がってるんだよ。どうせ真理に到達できない人間にはあんな真似は出来ないんだ。だったら下手に知識を授けず静観していたほうがマシだろうさ。言っとくけどこれに関しちゃジキスは知らないよ。当時あいつはまだ物心が付く前のことだろうからね」

「ジキス?」

「ギルマスの事です。ジキスと言う名前なんですよ」


 俺の疑問にアンゼリカさんが答えをくれた。

 なるほど、覚えておくとしよう。


「とは言え、昨今の状況はそうも言っていられないのでは?」

「あたしの知ったこっちゃないね。幸いやる気のあるやつはいたようだし、そいつに頼れば良いんじゃないかい?」

「それはどなたかお聞きしても?」

「いい歳してあんまり甘えるんじゃないよ。これ以上は自分で調べな」


 エドガーが尋ねるが、取り尽く島もなくあしらわれる。だがババアにしては饒舌だった様に思う。普段のババアであれば「それがどうした」と一蹴するだけだったはずだ。


「今日のババアはよく喋るな」

「確かに、私にしちゃ喋り過ぎだね。久々の顔を見て少し気が緩んだかね」


 そう答えたババアはどこか寂しそうに笑った。

 爺が死んだ少し後はよく顔を出していた。だが、俺が冒険者を初めた頃からパッタリと姿を見せなくなった。そう考えるともう二十年近く会っていなかった事になる。


「まぁ、変わらず元気そうで何よりだよ、婆さん」

「そりゃこっちの台詞だよ」


 どこか懐かしさを感じながら、久しぶりの知人に俺はそう声をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ