第88話 出頭
「あら、引っ込んじゃったわね?」
「まさか、自分では呼び出せないのかね?」
エドガーに核心を突かれ、俺は言葉に詰まる。
何しろ手の届かない場所に逃げ込まれたのだ。正直俺にはどうしようもない。
「どうやら図星かね。やれやれ、ここまで言うことを聞かない使い魔というのも珍しいね」
「そうなのか?」
「通常使い魔というものは嫌がりこそすれ、逆らうと言った真似はしないものだ。主の命令には少なからず強制力が働くものだからね」
なるほど、通常ならば主人の命令は逆らえるものじゃないってことか。
『私達は』
『従順です!』
頭の中に世迷言が響いてくる。こいつらこんな時だけ結託しやがって。
「なんでタイムとルミナなのか聞いてもいいか?」
「そうね、可愛いのはもちろんだけどほら、あの子達あのサイズじゃない? とてもやりがいがあると思わない?」
「確かにそれが出来れば店の技量を示す事ができて、審査員へのアピールにもなるでしょうね」
アンゼリカさんが、感心しながら頷いている。
裏を返せば出来なければ不必要に評価を下げることになりかねない。カナリアにはそれだけ自信があると言うことだ。
「単に物珍しさや下心的なものかと思ってたよ」
「あらやだ失礼しちゃうわね。私こう見えても仕事に関しては誇りを持ってやってるんだから。でもこれだけ嫌がられたらしょうがないわね。残念だけど諦めるしかないかしら」
カナリアが本当に残念そうに言った。それを聞き、頭の中で「うっ」と言う罪悪感に駆られた声が響いてきた。
「あの、私で良ければ協力させてください」
「良いのよ、リナリアが協力してくれるのならそれで十分。またの機会の楽しみにとっておくわ」
そんなカナリアに同情したのか、ミントがそう申し出る。だが、カナリアはやんわりとそれを断った。
ミントは純粋に自分にできることをしてあげたいと思ったのだろうが、何だろう。とてもヤラセの匂いがする。
だが、腕輪の中の二人がざわつき始めてるあたり効果は絶大だ。
やがて、罪悪感に耐えきれなくなった二人がおずおずと顔を出す。
「……わかりました」
「……謹んでお請け致しますわ」
タイムとルミナはカナリアの前に自首するかのように、肩を並べた。
「別に今回はそれでいいんだが、ちょっとちょろすぎだな……」
「うむ、これほどこう言ったやり取りに耐性がないと言うのも少々問題だね」
俺とエドガーが口々に感想を述べる。素直なのは美点ではあるが、それが過ぎるのも冒険者として褒められるものではない。
「あれ!? これもしかして藪蛇ですか!?」
「ああ言う逃げ方をすればどの道詰んでるさね。これに懲りたら安易に腕輪に逃げ込むのは止めるんだね」
「私は初めてですのに……」
その後、エドガーにより二人へ説教が始まった。
残りの面々はそんな二人から視線をそらしつつ、仕立て直しのため、採寸を進めていくのだった。




