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第86話 カナリアの条件

「ソルト君。あれは何?」

「あれは機織り機だよ。糸を編んで織物を作る道具だ。作業スペースって言ってもちょっとした丈合わせ程度をする場所かと思えば、思ったより本格的みたいだな」


 通された部屋は店の奥にあるだけに、それほど広い部屋でもない。そんな場所に、機織り機など置いているものだから、尚の事狭く感じる。


 正直、俺達が全員入ると狭苦しい。


「あらあなたあれを知ってるのね」

「たまたまだよ。昔見たことがあっただけさ」

「昔見たってあなた。もしかしてカウベリーの出身なの?」

「いや、仕事でたまたまな」

「そのくらいにしておきたまえ。これでも忙しいのでね。どうしても聞きたいと言うのなら、貸してやるので後にしてくれないかね」

「エドガーちゃんは相変わらずねぇ。まぁ良いわ。雑談は後の楽しみにとっておきましょ」

「人を犬や猫みたいに……」


 自分の意志を無視して進んでいく話に、俺は小さく愚痴る。


「それにしてもエドガーちゃん、また随分可愛い子を引き連れてるじゃない? 堅物のエドガーちゃんにしては珍しいわね」

「厳密に言えば私の連れではないがね。私は彼女たちの案内役を申し渡されただけだ。それで条件とはなんだね?」

「今度王都で品評会があるの知ってるかしら」

「ああ、知っているとも。もっとも、小耳に挟んだ程度だがね」

「その品評会で展示の他に、実際に衣装合わせをして優劣を競わせるらしいのよ」

「ちょっと待ってくれ」


 俺は二人の会話に割って入った。話を中断された二人は、俺に視線を向けてくる。


 話を聞く限り、その矛先が俺達に向けられるのは明白だ。だと言うのに、その品評会の話をまるで知らないというのは頂けない。


「その品評会ってのはなんなんだ?」

「あら、結構噂になっていると思ったけど聞いたこと無いかしら」

「あいにくあたしらは今日王都へ来たばかりでね。その手の噂はまだ耳に入っちゃいないのさ」

「あっ、それなら私さっき聞いたかも。何でも近々この王都にある服を売っているお店が、それぞれ自慢の一品を持ち寄って競い合うんだって。そこで優勝すれば王様から直々にお言葉を賜われるらしいよ」


 リユゼルが少し得意げに説明していく。きっと店に来ていた誰かに話を聞いたのだろうが、ちょっとかっこつけて言った姉さんの立場がないから止めてあげろ。


 おかげでカナリアとエドガーが少しいたたまれない表情を浮かべている。


「と、言うわけよ」

「……お、おう」


 要は昨今の事件の噂が広まり、不安になっている民衆に一時的にでも活気を取り戻させたいと言ったところか。後はこんな時だからこそ、国王の権威を今一度見せつける狙いもあるのかもしれない。


「つまり、ここに居る誰かにその品評会に出て欲しいというわけかね」

「話が早くて助かるわ。うちの子誰も出たがらなくて困ってたのよ。代わりに出てくれるなら今回のお代もただで構わないわ」

「ふむ……」


 二人はそう言うと、品定めするように俺達に視線を送ってくるのだった。

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