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第85話 思惑

 向かいの店舗へとやってくると、他の面々が買い物に興じていた。大衆向けという事もあって、価格もそれなりである。


「見た所、出入りしてる中に貴族は居ないみたいだが、これ成り立ってんのか」

「そもそもそれなりに地位のある人間が店へやってくる事は殆どないのだよ。そう言った人間は大抵商会の人間が屋敷へ赴くものだ」

「そうねぇ。来たとしても本人じゃなくて使用人ね」


 店内を見て感想を漏らす俺に、エドガーとカナリアが口々に補足してくる。

 そんな話をしていると、先に来ていた面々がこちらに気づいた。だが、ミントとリユゼルの二人はカナリアを見て、こちらに近づくことを躊躇っている様でこちらを遠巻きに見ている。


「ああエドガー、用事は終わったのかい?」

「まだこれからだね」

「そちらの方は?」

「カナリア・クロッカスよ。この店の店主をしている者よ」

「これは失礼しました。私はアンゼリカと申します。アカンサスの冒険者ギルドで副マスターをしています」


 アンゼリカさんはにこやかに自己紹介をしている。それに姉さんも続く。

 恐らく旧知であるリナリアはともかく、全く気にしていない姉さんと、それをおくびにも出さないアンゼリカさんは流石である。


「それでエドガーちゃん。さっきの服はどの子が着るのかしら。数が合わないからまだいるのよね?」

「それより先程言いかけた条件を聞かせてもらえるかね? 私の裁量で決められない様に思うのでね」

「あら、それは駄目よ。まだ教えられないわ。先にどの娘なのか教えて頂戴」

「なるほど、何が望みか大凡察せられるね」

「あらやだ、ばれちゃった?」


 エドガーとカナリアの会話を聞き、俺の方もなんとなくカナリアの思惑を察した。俺に害はなさそうなので見過ごすことにする。


 その間、俺は埒が明きそうにないのでミントとリユゼルを手招きで呼び寄せる。二人はおずおずと近づいてきた。リユゼルの方は露骨に嫌そうな顔を浮かべている。


「あら、この子達ね。いい! 良いわ! エドガーちゃんいい子を集めたわね!」

「別に君を満足させるために集めたわけではないのだがね」


 突然爆発するように騒ぎ始めるカナリアに対し、エドガーが淡々と答える。そんなカナリアの後方から、店員が静かに近づいてきた。


「あの、旦那様、ここで騒ぐのは控えて頂けると……」

「あらやだ、ごめんなさい。すぐに裏へ引っ込むわ」


 見れば周囲に居た一般客がこちらを見て若干引いているようだった。


「裏?」

「この裏にね、ちょっとした作業スペースがあるのよ。まぁ諸々はそちらでやりましょうか」


 俺が口にした疑問にカナリアが答える。

 俺達は、カナリアに案内されるまま店の裏への作業スペースへと向かった。

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