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第84話 標的

「エドガーちゃんいらっしゃい」


 カナリアと思しきその男は、くねくねと体を動かしながらこちらへと駆け寄ってくる。こう言う手合を一番嫌いそうなルミナがやけに静かだと思えば、笑顔のまま空中で硬直していた。

 カナリアは近づいてくるとそのままエドガーに抱きついた。エドガーは表情一つ崩さずそれを受け入れている。いつの間にやら手に持っていた荷物を床におろしての徹底ぶりだ。

 

 もしかして下手に避けると機嫌を損ねたりするんだろうか。

 

 しばしの抱擁の後、カナリアはこちらへと視線を向けてきた。


「エドガーちゃんこちらは?」

「パニカムギルドに所属している冒険者だ。ちょっとした要件でね。今日ここへ来たのもそれに関連してのことだ」


 エドガーはそうとだけ言うと、その後をこちらへ促してくる。俺はそれを受け、簡単な自己紹介をする。


「ソルトだ。そっちにいるのはタイムとルミナだ」


 紹介されタイムは軽く会釈をするが、ルミナの方は硬直したまま動かない。そんなルミナをタイムが肘で小突く。それによって、ルミナもようやく我に返り会釈をした。


「ソルトちゃんにタイムちゃん、それとルミナちゃんね。私はカタリナ・クロッカス。言っておくけど貴族じゃないわよ?」


 貴族ではない。それの意味するところは一つしか無い。元は教会に預けられた孤児だったと言うことだ。


 それだけでもこの王都では風当たりが強そうだが……気にならないのかもしれない。


 カナリアはパーティードレスの様な綺羅びやかな衣装を身にまとっている。その見目に比べれば孤児という事実等どこ吹く風だろう。


「そもそも本名ですら無いのだがね」

「……芸名ですか?」


 若干ビクつきながらもタイムはそんな事を言ってのける。こいつをちょっと尊敬する。

 それにしてもなるほど、本名じゃないのか。まぁ男にカナリアなんて名前つける親はそうはいないよな。

 

「あら失礼しちゃうわね。私の名前は生まれてからずっとカナリア・クロッカスよ。それで今日はなんの用かしら。その子達をあたしに紹介しに来たってわけじゃないんでしょう?」


 俺達は通されるまま、部屋のソファーへと向かい合って座る。その後、エドガーは持ってきた荷物を目の前のテーブルへと広げていく。

 思っていたとおり、それは城へと来ていく為の衣装である。


「済まないがこれの手直しを明日までにやって欲しい」

「また無茶を言ってくるんだから……、それでこれを着る子は……まさか」

「違う。俺じゃないぞ」


 俺は即座に否定する。

 眼の前に並んでいるのは全部女性向けのものである。そんな同類を見つけたような視線を向けるのは止めて貰いたい。


 俺の返答を聞き、カナリアは実に残念そうである。


「着るもの達は店舗の方で待たせている。頼めるかね?」

「必要なのよね? しょうがないわね。私とエドガーちゃんの仲ですもの、この貸しはいつか返して……いえ、そうね」

『ひぃっ』


 獲物を仕留めるような視線を送られ、タイムとルミナの二人が小さく悲鳴を上げた。


「まぁそれは後にしましょ。とにかく店舗の方へ行きましょうか」


 そう言うとカナリアはさっさと部屋を退室していった。俺達もその後を追って、店舗の方へと向かった。

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