第78話 各地の噂
「そもそもどうしてこんな混んでるんだ? 普段からこうな訳じゃないよな?」
もし普段からであれば、いくらなんでも執政に問題がある。権謀術数を張り巡らせてる場合じゃないだろう。
「なんだかね。並んでる人の話を総合すると各地で問題が起こってるみたいだよ」
俺が口にした疑問にリユゼルが答える。休憩を早々に切り上げ、並んでる人達に話を聞きに行っていたらしい。体力もさる事ながら、その社交性も驚きだ。
「驚いてるようですが、ソルトさんもあの位できないと駄目なんじゃないですか」
「そりゃ情報料を払えばな。話術だけでやれと言われればお手上げだ」
情報には対価が必要だと頭にあるせいか、どうしても互いに商売っ気が出てしまう。話術だけで情報収集をするとなると、これほどまで上手くは運べないだろう。
「各地で問題ですか?」
「はい。アカンサスほどではないみたいですけど、洞窟や遺跡に見慣れない魔物が出たんだそうです。噂の域ですけど、中には壊滅した四剣のパーティーもあったみたいですね」
「四剣が!? ……信じられないね」
四剣と言えば、この国でも有数のパーティーだ。それが壊滅したとなればただ事ではない。ピンときていない面々を除けば、誰しもが驚きを禁じ得ないでいる。
「ソルトさん、私その称号持ってる人達にやられ役のイメージしか湧かないんですけど」
「確かにお前が見聞きした限りだとそうかもしれないけどな。だが、お前何を言っても許されるなんて思うなよ」
「その壊滅させたとされる魔物はどうなったんですの?」
即座に腕輪に戻るタイムをよそに、ルミナがリユゼルに質問する。
「五剣の人達が討伐したみたいだよ」
「でもそう言うのって普通秘密にしたりするんじゃないのかな?」
「四剣の知名度のせいだろう。彼らが帰ってこないとなると街ではすぐに噂になるはずだ」
疑問を口にするミントに対し、リナリアが答える。
「だからこそ、五剣により討伐されたと言う情報も出回っているわけですわね」
「それで、それはどこの街の話なんだい?」
「それがちょっとはっきりしないんだよね」
「なるほど、だから噂の域ってわけか」
姉さんの質問に、リユゼルが首を傾げる。
街の名前が出てこないってことは、もしかしたらデマカセかもしれないな。
「各地で問題が起きていることは事実なのでしょう。こう言う時は真偽不明な噂が良く出てくるものです」
「だとしても、これは少し妙ではありませんか?」
王都へと伸びる長蛇の列を見て、ルミナが疑問を口にする。すると、そこへエドガーが戻ってきた。
「それは王都ではまだ問題が起きていないからだね。ある程度裕福なものが王都へ避難しているのだそうだ」
エドガーはルミナの質問に答え、馬車を動かす準備をしていく。
「その様子だと、上手く行ったみたいだな」
「幸いなことに王都に巣食っている連中も異常な事態を察し始めた様だね」
なるほど、だから少しでも確かな情報が欲しいってことか。
「では行こうか」
そう言って、エドガーに促されるまま、俺達は王都へ入るための手続きに向かうのだった。




