第77話 嵐の前に
「ここが王都か」
俺達は馬車に揺られ数日かけて王都へとやって来た。かなりの強行軍であったため、馬車の面々は誰しもが疲れ果てている。平静を装っているが、それはエドガーとて例外ではない。
元気なのは精霊コンビくらいなものである。
「そうですけど、そうじゃありませんよ、目を背けないでください」
「いやしかしだな。これはない、これはないわ」
俺が内心で感慨にふけっていると、タイムの奴が呆れたように言ってきた。俺は現実に引き戻されつつ、目の前へ視線を向ける。
そこには王都へと続く長蛇の列が延びていた。それも一日やそこらで解消するとは到底思えないほどの長い列だ。
王都は遠くに見える程度で、完全に衛兵の許容量を越えてしまっている。
今からこれに並ばないといけないのかと思うと、本当に億劫になる。
「エドガーあんた王命なんだろ? これどうにか出来ないのかよ……いや、待てよ。此処でかかった日数も経費なんだ。俺としちゃありか」
「無しだよ。何をバカなことを言ってるんだい。エドガー、実際どうなんだい?」
姉さんが俺の脛を軽くけとばしながら、エドガーに問いかけた。
「一応掛け合っては見るが、あまり期待しないで貰おう」
「王命なんですから、私達を優先してくれるとか出来ないんですか?」
ミントがエドガーに問いかけると、罰が悪そうにリナリアが話し始める。
「エドガー様は市民よりで発言される方だからな。その、なんだ……」
「貴族の鼻つまみ者というわけですか」
あっさりと指摘するルミナに対し、言葉を濁していたリナリアが目を背ける。
「でも王命は王命でしょ? エドガーさんが嫌われてたってそんなの関係ないじゃない」
「諸侯のそうした好き嫌いがまかり通ってしまうほどに、王の権力が衰えているんですよ」
反発するリユゼルに対し、アンゼリカが現状を説明した。副ギルドマスターの肩書は伊達ではないらしく、アカンサスという遠距離でありながら相応に王都の事情を把握しているらしい。
「全く耳が痛い話だが、その通りだ。ともかく、掛け合ってみよう。君達は此処でおとなしくしていてくれたまえ」
エドガーはそう言うと、路傍で馬車を止め、馬にまたがって城門へと出向いていった。
「それにしても私達を門前払いして、その人達に何か良いことがあるのかな」
「そこいらの男爵がそうそう簡単に王に意見を言えるとは思えないし、それなりに国王と仲が良いんだろ。それを仲違いさせたいとかじゃないか?」
まぁそれほど懇意にしているのなら、そんな手段は悪手としか思えないが、誰しもがそれを悪手と考えるわけでもない。
「ひとまず今はゆっくり休みましょうか。休めるときにしっかり休むのも冒険者の鉄則ですよ」
「そうだな。……門を過ぎてからは忙しくなりそうだしな」
俺達はその場で疲れた体を休めるのだった。




