第76話 王都への不安
「なぁエドガー、実際の所何で俺達なんだ? アンゼリカさんはわかる。副ギルドマスターだなんて聞けばそりゃそうだろうさ」
あの後、アンゼリカさんに立場を尋ねたところ、「そう言えば名乗っていませんでしたね」と言いながら、自身が副ギルドマスターであると教えてくれた。
どうして受付なんぞしていたのかはわからないが、受付をしながら指示を飛ばしていた理由がようやくはっきりした。
「今更だね。君たちは言われてみればそうだと、ここで降ろされたらどうするつもりなのかね」
「……歩いてアカンサスへ帰るさ。まだ帰れる距離だからな」
まだアカンサスから馬車で半日程度の距離だ。王都までの旅支度をしている俺達ならば、戻れない距離ではない。
「その間報酬もなしでやっていけるのかね?」
「ぐっ、まだギリギリ大丈夫だ」
道中の旅費はエドガーが出してくれることになっていた。アカンサスでの生活は徐々に生活を圧迫しており、正直パニカムへ戻る程度の蓄えしか持っていない。パニカムへと戻ればとりあえず、エドガーの依頼報酬が発生するという算段である。
てっきり依頼報酬が貰えるものと思ったが、手続きがあると言って頑なに支払わない。じゃあパニカムで支払えと言えば、今はそんな時間が無いの一点張りである。こいつに財布を握られたままなのは非常にまずいな。
「最近のソルトさんってヒモみたいですよね」
「それでお前が守れるなら俺はヒモに甘んじる覚悟がある」
「止めてくださいよ、良いこと言ってるみたいですけど、ただのダメ人間じゃないですか……」
アカンサスでは色々しがらみもあって微妙ではあったが、ただ居るだけで生活費が貰えて生きていけるのは至上ではないだろうか。だがエドガーの下はだめだ。厄介事を押し付けられる未来しか見えない。
「君のような厄介事ばかり持ち込む人間のパトロンなど御免こうむりたいものだね」
「奇遇だな。俺もそうだ」
そんな俺達を見ながら、リユゼルが当然の様に疑問を口にする。
「ねぇ、二人は仲が悪いの?」
「リナリアの一見を聞くにエドガーも厄介事を呼び込むような生き方をしてるみたいだし――」
姉さんがそう言いながら、リナリアへ視線を向ける。リナリアは微妙な顔をして、その視線から顔を背けた。
「同族嫌悪ですわね」
「互いが互いを厄介事を持ち込んでくる相手くらいに思ってるわけですね」
そんな姉さんの言葉をルミナがまとめ、アンゼリカさんが続いている。
「君と知り合う人間は誰も彼も敬意を払うと言うことについてどう思っているのかね」
「それを俺に聞くなよ……」
道中礼儀作法の指導などし始めたため、エドガーが少し礼儀にうるさい。
「話を戻そう。なぜ君たちなのか、と言う話だったね。簡単なことだ。先のパニカムの一件で関わった人間が、アカンサスの自体の渦中にいる。そう聞いてしまえば人選にさしたる疑問は浮かばないはずだ」
なるほど、ミントは俺達の、そしてリユゼルは被害者であるクラリスの関係者と言うわけだ。単なる木っ端と思っていた田舎の事件が、実はそうじゃないかもしれないと、今更ながらに慌て始めたってことか?
「……だが、私も少々きな臭さを感じている。その直感を大事にしたまえ」
エドガーが俺にだけ聞こえる様に、最後に付け加えた。
「……行きたくねぇ」
その話を聞き、俺はますます不安を募らせるのだった。




