第75話 王都へ
「王都からの召喚状をなんであんたが持ってくるんだよ。あんたはパニカムの冒険者ギルドのマスターだろうが」
「北の洞窟の一件の報告に出向いていたのだよ。ギルドだけでなく、国家としても重要な問題に違いないのからね。もっとも、王宮ではあまり重要視していなかったようだがね」
「当然さね。国はあたしらの事をそんなに気にしちゃいないよ。大方馬鹿にして笑われたんじゃないのかい?」
渋い顔をして話すエドガーに対し、姉さんが呆れて言葉を返す。
国は片田舎で起こった些事に興味はない。それは至極当たり前のことだ。彼らは国家運営の為と称し、権力争いに忙しいからな。
「それに関しちゃ俺も同意見だが、答えになってないぜ。なんであんたが持ってきたんだ? ……あ、いや、やっぱり良い。あんたが王都に滞在していた時にアカンサスから急報が届いた訳か」
理由に気づいた俺は言葉を引っ込める。
「安心したよ。本当にわからないようなら君の評価を下げざるを得ないところだ」
本当に安堵したというようにエドガーが言ってくる。
「それは別に構わんがね。優秀なあんたにしちゃ仕事が遅いんじゃないか?」
俺達がアカンサスへ向かった日数と、アカンサスから急報が届く日数を鑑みれば、どう考えても時間が合わない。エドガーが滞在していた期間が長かったか、パニカムからの出立が遅かったからに他ならない。
「私個人の優秀性は置いておいて、向こうで色々やることがあったのだよ」
エドガーは俺の皮肉を軽く流すと、一度咳払いをはさむ。
「さて、改めて、この場にいるアンゼリカ、リナリア・ビベッジ、フェンネル・パプキン、ミント・パプキン、ソルト、リユゼル、以上の六名は王都への出頭を申し渡す。この命令は国王シートリア・センティッドの勅命であり、拒否権は認められない。直ちに準備したまえ」
「私もですか!?」
「当然だね。今この街に残っている当事者の中で一番身分の高いものは君だ。君が来ないということは認められない」
「ちょっと待って下さい」
淡々と告げるエドガーにタイムが口を挟む。
「アンゼリカさんが一番身分が高いんですか?」
「そうだ。貴族令嬢は血を引いていても貴族の称号を持っているわけではないのだよ。少なくともこの国において敬意は払っても優遇するような真似はしない」
してると思う、と言うのは野暮なツッコミなので止めておく。
「わかりました。すぐに準備しますので、しばらくお待ち下さい」
「すぐに準備するって、アンゼリカさん一旦家に帰るんじゃないんですか?」
「それがオレガノがギルドマスターだった頃、突然近隣の町の調査や王都への使者を任されることが多くって。準備だけはいつでもしてるんですよ」
アンゼリカさんが苦笑しながらそう言った。その様はどこか寂しそうである。
「結構、では各々私が乗ってきた馬車に乗りたまえ」
「準備が良いこって」
俺達がギルドから出ようとすると、その背中から、
「君たちには道中最低限の礼儀を覚えてもらう。死にたくなければ死ぬ気でやることだ」
非礼を働けば首でも刎ねられるんだろうか。
俺は気が重くなりなら、エドガーが乗ってきた馬車へと乗り込むのだった。




