第69話 幕間 踏み出す一歩 後編
アンゼリカさんの言っていた場所は、街を出てすぐに見つけることが出来た。この場所から、町の入口の様子を窺い知ることが出来るほど、街の直ぐ側である。
しかし、肝心のトライド草の方はそうは行かなかった。大量に摘み取られた形跡があり、トライド草自体は見当たらない。
よくよく考えてみれば当たり前の話だ。採取したのがつい先日のことであれば、よく知られた採取場所に残っている道理はない。
まさかこれ罰金だけ取られるオチじゃないだろうな。でもまぁ、周囲は広い平原だ。一番近いのがこの場所と言うだけで、探せばまだ群生地もあるだろう。
もっとも、俺としてはこいつらに付き合って、別の群生地を探す気など毛頭ないが。
「ありませんね」
「ありませんわね」
眼前の光景を目の当たりにし、二人が呆然と呟いた。
「ほら、勝負するんだろ? とっとと始めろよ。期限は太陽が真上に来るまでな」
「待ってください。それだと一時間もありませんよ!?」
「むしろこの惨状の中、一時間も探させられるんですの?」
抱いた感想は真逆の様だったが、二人はトライド草を探しに一斉に散っていった。
「ねぇソルト君、さっきアンゼリカさんに何を言われたの?」
「ん? ああ、忙しい中厄介事を持ち込んだから罰金だってさ」
「それかなりソルト君の意訳が入ってるよね……」
多分に俺の主観が混じっているのは認めるが、おおよそ間違っては居ないはずだ。
「まぁあの報酬は破格だったしな。一籠分程度持って帰れば普通に報酬は貰えるはずだよ」
「こんなところで大丈夫かな……」
「それはあの二人の成果次第だな。足りなきゃ決着をつけさせた後、そのあたりを探せばいい。むしろ馬鹿なことをすれば手痛いしっぺ返しが来るってのを思い知らせるには、見つからない方が良いとさえ思うね」
一時間も成果の上がらない作業をやらせれば、相応に懲りもするだろう。
「そうかなぁ」
「俺はそう思う。まぁミントちゃんはミントちゃんで好きにすればいいさ」
俺がそう答えると、ミントちゃんは何やら不満げに口を尖らせる。何か気に触ることを言っただろうか。今の会話の中で思い当ることがまるで無い。
「ソルト君、私ももう十分大人だよ?」
「あ、ああ、まぁそうだな」
突然そんな話を切り出され、答えに窮した俺は曖昧に返事をする。
大人になったときにして欲しくなること? 何かあっただろうか。思えば俺はそんな事を考える余裕もないまま生きてきた気がする。まっとうに成長した場合に発生する欲求なんてわかろうはずもない。
「だからちゃん付けは止めて欲しいの」
「……あ、ああ、何だそんなことか。別にお安いご用だよ」
色々な考えが頭をよぎったが、求められた事は特に難しいことでもなく、安堵する。
「じゃあ呼んでみて」
「ミント」
「……」
自分で求めた割に、ミントはとても不満そうである。
「……あー、やっぱり戻すか?」
「ううん、そうじゃないの。私としては結構一大決心だったのに、そうあっさりと言われると……もぉわかるでしょ?」
「ああ、なるほど」
そもそも俺がちゃん付けしていたのは、まだ小さい頃『私の事呼び捨てにしないで! ちゃんをつけて!』などと、泣き叫ばれた為だ。
まぁ本人が覚えていないのならば、教えて恥ずかしがらせる理由もない。
「まぁ俺くらいになると、この子も大きくなったなぁ、くらいにしか思わないんだよ」
「そのお父さんみたいな目線もやめて」
「そいつは……善処するよ」
何しろ生まれた頃から知っているのだ。その要求はなかなかに難しい。
「私は二人と……」
ミントは続けて何かを言おうとしたが、思いとどまったらしく、その先を口にはしなかった。
「私、頑張るから」
留めた言葉とは別に、ミントはただそう口にした。
「まぁぼちぼちな」
「うん」
「さて、あいつらはと」
タイムとルミナの姿を探すと、二人は一つのトライド草を奪い合いはキャットファイトを展開していた。
その後、耐えかねたミントにより、二人は日が傾くまで説教を受けるのだった。




