第68話 幕間 踏み出す一歩 前編
「と言うわけで依頼を受けに来ました」
「何か手頃なのはありませんの?」
突然ギルドに駆け込み、開口一番そんな事を言ってくるタイムとルミナに、アンゼリカさんが苦笑いで応じる。
あの後、二人の喧嘩は一向に収まらなかった。本当にやり合わせるわけにも行かず、依頼の貢献度で決着をつける、と言うこととなり、今に至っている。
その見届け役として俺とミントちゃんが同行することになった。リナリアはともかく姉さんが来ないのは意外だったが、何やらやることがるのだそうだ。
アンゼリカさんがこちらに助けを求めてくる。
「あー、色々と事情がありまして、不足している薬草採取とかそんなのないっすかね」
「……なるほど、そう言うことですか」
横で口喧嘩を再開するタイムとルミナを見て、何事かを察したらしい。
「というか、アンゼリカさんの方こそ、受付に立ったりしてて大丈夫なんですか?」
「ええ、私はあくまでも代理でしたから、つい先程後任の方が到着されたんです。もっとも今のところはあくまでも緊急の代理ということらしいです」
「へぇ、てっきりこのままアンゼリカさんが仕切っていくもんかと」
「まさか、そうしたい所ではありますが、ああ見えてもあれには色々難しい条件があるんですよ」
「へぇ、そうなんですね」
というかついさっき付いたって、引き継ぎとか大丈夫なんだろうか。
いや、すでに終えてそうだ。この一週間でのこの人の働き方は異常だったしな。
「それで、お探しの依頼は薬草採取でしたね。こちらなどはいかがでしょうか」
アンゼリカはわざわざ、タイムとルミナの方へ依頼書を提示する。二人は依頼書を覗き込み、読み上げていく。
「トライド草の採取、近くで取れるんですか?」
「ええ、街からでて少し西に行ったところにある草原に群生しています。今からでも日帰りで帰れると思いますよ」
タイムとアンゼリカのやり取りをよそに、俺も二人の後ろから依頼書を覗き込む。依頼書には次のように記載されていた。
――求む:トライド草 期限:至急 報酬:1ジール 可能な限り大量にお願いします――
近くで取れると言うのに報酬が破格だ。この二人に勧めるあたり、何か特別な事情があるというわけでもないのだろう。なら、それだけ緊急性が高いということである。
至急……か。多分もう誰かが行ってんだろうな。……いや、待てよ、今この人依頼書どこから出した?
トライドは擦過傷などに使う薬草だ。パニカムであれば町中にも群生していたりするほど、特に珍しいものでもない。そのままでも使えないことはないが、大体は軟膏などにしたりする。先日の一件で一時的に在庫が尽きたにせよ。今だ不足しているというのも些か奇妙な話である。
俺は少し考えて、アンゼリカさんの方を見た。何かを察したように、アンゼリカさんが俺へ向けてにっこり微笑んだ。
なるほど、誰かが行ってると言うか、もう完了してるわけか。
軟膏に加工してしまえばそれなりに日持ちもする。特に冒険者ギルドともなれば、在庫があって困るものでもないのだろう。
「良いでしょう。ではこちらをお受けしますわ」
「私も異論ありません」
二人共全く異論を挟まず同意した。全くこいつらにはがっかりだ。
「ではこちらをお願いしますね。それとソルトさん」
アンゼリカさんが手招きして俺を呼び寄せる。
「(ギルドに問題を持ち込んだ罰金として50リジー頂きます)」
と、冗談めかして耳打ちしてきた。
なるほど、適正価格というわけか。こんな面倒なことをするくらいだ。きっと今余ってるんだろうな。
「さぁソルトさん、行きましょう!」
「ご主人様、急いで参りますわよ」
二人が張り切ってギルドを飛び出していく。
「しゃあないな。ミントちゃん行くよ」
俺がミントちゃんに声を掛ける物の、ミントちゃんの反応がない。
「ミントちゃん?」
「あ、うん。すぐ行く」
そう言ってミントちゃんは慌てて二人の後を追って冒険者ギルドを出ていく。そんなミントちゃんを不思議に思いながら俺も冒険者ギルドを後にした。




