第66話 決着
全力で魔法を使ったせいで力を使い果たしたミントちゃんは、その場で気を失ってしまった。
俺はミントちゃんを寝かせた後、同じ轍を踏まないよう、念入りに霧の生存を確認する。その際、先程まで綺羅びやかだった内装や宝物から可能な限り目を背けることを忘れない。
もっとも、やつの生存を確認する以上、目を背けるにも限界がある。視界に入り込むぼろぼろになったそれらが、部屋の惨状を如実に物語っていた。
同様に確認しているタイムが、先程から「これは魔物のせい」などとしきりに呟いている。あいつの精神状態が俺よりやばい。
「……今度こそやりましたね」
「……そうだな、やっちまったな」
完全に霧が消滅したのを確認し、改めて宝物庫を確認する。宝物はおろか、壁の一部が吹き飛んでおり、二階が崩れ落ちてしまっていた。生き埋めになら無かっただけ運が良かったかもしれない。
「これからどうしますか?」
「そうだな……」
壁の向こうに見える空は白み始めている。
あいつは夜明けまでと言っていた。今から街に戻っている時間はない。
「念の為、屋敷の外の様子を確認しに行くか」
リナリアの事もある。出来る限りのことはしておこう。
「あの……ごく自然に私を視界から外すのは止めてくださいまし」
「お前を受け入れると目の前の現実から逃げられない気がするんだよ」
「なるほど、その手が」
「何がなるほどですか。私をなかった事にしたとしても目の前の現実は変わりませんわ」
確かにけしかけたのは俺だが、悪びれもせず言いきりやがった。こいつどうしてくれよう。
「ソルトさん、この女シメちまいましょう」
「……止めろ、お前はどこのごろつきだよ」
自分の命に直結しているせいか、タイムがやたら荒んでいる。
「まぁいい、取り敢えず目の前の現実は後回しだ。ルミナ、まだ余力はあるか?」
「はい、多少ですけれど。ただ、ご主人さまのその怪我を治療するほどの余力は……」
ルミナが俺の右腕に視線を落としながらそう言った。治せるのならそれに越したことはないが、できないものは仕方がない。
「そっちは応急処置で済ませるよ。それより、まだ余力があるならミントちゃんを頼む。俺とタイムは外の様子を探ってくる」
「それは構いませんけど、お二人だけで大丈夫ですの?」
「探るだけなら何とかなるさ。それじゃあ頼んだぞ」
「はい、確かに承りましたわ」
そう言って、俺とタイムが宝物庫から出ようとした時、
「その必要はないさね」
俺達を制する言葉とともに、フェンネルとリナリアが宝物庫へとやって来た。その手にはここを出ていくときには持っていなかった、自身の身長と同じくらいの長さの重剣を持っている。
「姉さん、無事だったか」
「それはこっちのセリフさね。そっちにはミントもいるようだね?」
姉さんは宝物庫へと入ってくるなり、ミントちゃんの姿を発見したようで、こちらを睨みつけてきた。そんな姉さんをタイムが呆れた様に見つめている。
「さすがフェンネルさん。目ざといですね。そっちのリナリアさんは良いんですか? もう少しでグールですよ?」
「その言い方は止めろ。そちらの問題は既に解決済みだ。ここへ来る途中グールが消失するのを目撃した。この屋敷から大きな音が聞こえた少し後のことだ。心当たりがあるだろう?」
なるほど、やっぱりあの霧があいつの言っていたボスで間違いなかったようだ。
「そりゃ何よりだ。このふざけた遊びもやっと終わりってわけだ」
「残るは目の前の現実ですね」
「止めろ、そっちの現実は見たくない」
「私のことを紹介して頂けませんか?」
「あー、悪いが後にしてくれ」
銘々が騒ぎ出したのを適当にあしらいながら、俺はその場に座り込み、白んでくる空をじっと眺めていた。




