第63話 油断
光に類する魔法は少し特殊だ。他の属性と事なりまず詠唱が必要となる。爺の話しによれば世界にほんの一握り、他の魔法と同様に自在に扱える人間がいるそうだ。昔はそう言う一握りの人間を勇者と呼んだらしい。
「光の大神エレムルス、風の大神スピカータ。我ここに汝らの慈悲を願う。其の者汝らの定めし天測を断ち、天壌無窮を身に宿せし者也、其の者世に災いを生ずる者也」
霧を中心とし、その左右にエレルムスとスピカータを現す魔法陣が現れる。
「聖光よ、恵風に宿りて遍く災禍に静謐を」
左右に展開した魔法陣の中心に、軸となる魔法陣を描いていく。
その間にも、周囲に貼られた結界を撥ね退けようと、霧が激しく明滅している。タイムが結界の維持に尽力しているが、既に結界は崩壊を始めていた。
まずいな、俺が力を使いすぎたせいで、タイムの余力が尽きかけてるのか。
もう少し、間に合え、間に合え。
結界が砕け散る。だが、俺の勝ちだ!
「風よ! 燐光を今ここに! 《聖光の風》」
魔法陣から光の粒子が吹き上がる。粒子が霧を飲み込み、その一粒一粒が霧を蝕んでいく。霧が苦しみ逃げ出そうとしているが、光の粒子はそれを許さない。
やがて、光は霧とともに徐々に消失していった。
「……やった……やりましたね!」
霧の消滅を見届け、タイムがはしゃぎ始める。
「あれがアルカイドの言ってたボスってやつなら、これで決着か? 外に出て確認してみないとな」
「そもそもそれを倒したからって騒ぎが静まるんですか?」
「……ぐっ。そういやクリアになるとしか言ってなかったっけな」
もし、まだ外では変わらずグールが暴れているようなら駆逐する必要がある。まだ対応する余力はあるのだ。応急処置を済ませたら参加したほうが良いだろう。
「とにかく、だ。外に出てみないことには始まらないな」
「そうで――ソルトさん!」
突然タイムが叫び声を上げる。見れば後方から僅かに残った霧が、こちらへと迫ってきていた。
タイムが結界を出そうとしたようだが、形をなす前に霧散する。
すぐさま対応を切り替えたタイムが、俺を庇うように霧の前へ飛び出した。
「馬鹿!」
俺は飛び出したタイムを即座に払い除ける。その僅かな間に、霧が回避不可能な距離へと接近していた。
既に詠唱は間に合わない。俺は歯を食いしばり、すぐ後に訪れる激痛に備える。
だが、いつまでたっても痛みは訪れず、霧は俺の後方へとそのまま通過していた。
気づけば、いつの間にか俺の身体が光で覆われていた。
「よく弱っているようですわね。ミントさん、あれを練習相手と致しましょう。ご安心を、一当てすれば倒せる相手ですわ」
「うん、頑張る」
声がした方を見れば、そこにはミントちゃんとルミナの姿があった。




