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第62話 VSフォッグ

 目の前に見える霧が赤く変色していく。


「ソルトさん、これもしかして怒らせただけなんじゃ……」

「……その様だ。どこで物を考えてるんだろうな?」

「いえ、そう言うのはどうでも良いです」


 俺の疑問を、タイムがバッサリと切って捨てる。

 まぁ、相手の生体はともかく、出方は知っておきたい。まさか相手を操るだけが、全てと言うわけではあるまい。


「タイム!」

「気をつけてください。こちらもそんなに余力はありません!」


 短剣を生み出しながらタイムが叫ぶ。まぁそれもそうか、出来るだけ回収はしているが、それでも全部とは行かない。そもそも、元が硬貨なのだ。金額がどうあれ、大した量があるわけでもない。


 俺は短剣を受け取り、《光刃》を纏わせ《大気加速》で霧に打ち出す。だが、それは霧へと届く前に砕け散る。


「ソルトさん!?」

「……そうそう上手くいかないか」


 魔法が干渉し合ったか? ともかくこれは練習もなしに使えないな。

 相手が姿を消すせいで、迂闊に接近戦を仕掛けられない。万一距離を測り間違えれば、一巻の終わりだ。


 こちらが態勢を整えるより先に、霧が仄かに発光する。すると、周囲にあった壺が浮かび上がり、勢いよくこちらへ投げつけられた。

 俺はすぐさまその場を飛び退く。その直後、俺のいた場所へと壺が叩きつけられ、砕け散る。


「……やばいな、あれいくらだよ」

「当たってもいないのに、何かが見る見る削られていく気がします」

「全くだ」


 その後も次々と色々な調度品が投げつけられ、壊れていく。

 全くもって精神衛生上よろしくない。


「私……これ以上は耐えられないかも知れません」

「耐えろよ、何言ってんだだお前。当たってるわけじゃないんだぞ」


 その時、背筋に怖気が走る。俺は咄嗟に《光刃》を生み出し、背後を一閃した。

 《光刃》を振り抜いた右手に激痛が走る。


 ……飲まれた。


 俺は歯を食いしばりながらその場を退く。そちらへ目を向けると、背後に現れた霧がまさに霧散していく所だった。正面にいた方が若干薄まっているのは気の所為ではないはずだ。


「大丈夫ですか!?」

「……やられた、分離すんのかよ。だが、間違いなく手応えはあった。性質が厄介なだけで大した強さはなさそうだな」

「一度の攻撃でその有様なのに、何を強がっているんですか」


 俺の右手は焼けただれ、到るところから血が滲んでいる。恐らく強い酸へと性質を変えたのだろう。


「きっと毒霧とかにもなれるんだろうな、あれ」

「はい、きっとそうだと思います」

「となると、いよいよ接近戦はまずいか。タイム、暫くあれを閉じ込めておいてくれ」

「……判りました」


 タイムは即座に結界を張り、霧を閉じ込める。


 結局また、一か八かの一発勝負か。

 俺は内心で愚痴りながら、魔法陣を描き始めた。

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