第61話 光の適正
「まずいな、ルミナの結界もそろそろヤバそうだ。効果時間ってわけでもないんだろう?」
理屈はわからないが、霧を閉じ込めていたルミナの結界も、その効力を徐々に失い始めていた。
「はい。あの形状ですのに、思ったより攻撃力があるようですわね」
「ど、どうするんですか!?」
「やかましい! ルミナ、お前は俺から離れられるか?」
慌てふためくタイムを制しつつ、ルミナに問いかける。
「はい、ミントさんの傍であればできますわ」
「そうか、ならルミナ。ミントちゃんを連れて二階右奥の部屋へ避難してくれ。出来るな?」
「はい。お任せくださいませ」
俺は霧状の化物に視線を向けたまま、ルミナに命令する。外にいる連中も厄介ではあるが、この結界が張れるのならば、脅威とはならないはずだ。ルミナがついていれば難なくこなしてくれるだろう。
「ミントちゃん、聞いたな。悪いがリユゼルを連れて行ってくれ。ルミナと一緒に行けば平気なはずだ」
「で、でもソルト君は!?」
「俺か? 俺はさっき追いかけられた借りを返してからいくさ」
あれがアルカイドの言っていたやつであれば、放置しておくわけにも行かない。一度は逃げ出したが、今ならばおそらくやりようはある。
ミントちゃんは納得行かないらしく、動こうとしない。ミントちゃんが動かないため、ルミナも動かず、従ってメイドたちも動けない。
「元々招き入れたのは俺だからな、不始末は自分で片を付けるさ。ほら、そろそろ結界が持たない。行ってくれ」
「ごめんね」
ミントちゃんはそう言い残し、ルミナとともに部屋を出ていった。リユゼルはルーナ達の手を借りていたが、体を鍛えていない女の細腕では、それなりに時間がかかるだろう。ある程度ひきつけておく必要がある。
「ソルトさん、状況を考えて私の眷属ってフェンネルさんですよね? 私はそちらに行きたいんですけど?」
「お前には無理だな。自分の状態がルミナとは違うってことを自覚しろ。タイムは俺とここで運命共同体だ」
ルミナと違い、タイムにはいろいろと疑問がある。記憶もそうだが、そもそもルミナの言っていた条件と合致しない。なにせ俺が行った時にはすでに、タイムは復活していたのだ。個々で条件が違うのか、ルミナが異常なのかまでは今はわからないが、全く同じと思わない方が良いだろう。
「だって倒せないから逃げ込んだんじゃないですか! 格好つけてどうするつもりですか!?」
ルミナが扱う力はどう見ても光の魔法だ。ルミナがタイムと同質のものならば、その特性は俺に付加されているはずだ。俺自身、今まで身の内に存在していなかった力の広がりを感じる。
俺は試しに光の基本魔法である《グロウ》を使用する。すると、俺の掌から光の玉が生み出され、周囲をぼんやりと照らした。これは今まで俺には行使できなかった魔法だ。俺はそれを確認すると、光の玉を握りしめ、霧散させる。
「状況が変わった」
俺が断言すると同時に、ルミナの結界が失われ、霧状の化物が開放される。
「タイム!」
「えっ!? はい!」
俺の一言でタイムが察し、銅の短剣を生み出す。徐々にコチラの言うことを汲んでくれる様になって何よりである。
「光よ。刃に宿り、我が敵を打ち倒せ! 《光刃》」
魔法と共に、手中の刃が光に包まれる。俺はその短剣を霧状の化物へ投擲した。
刃は霧状の化物へ当たり、宙空で突き刺さる。
その後、光の粒子となって霧散した。
刃を光へと作り変える非効率極まりない魔法ではあるが、実態のない相手には効果覿面だ。
刃が突き刺さった霧は激しく変幻を繰り返し、苦しむ素振りを見せた。
「……魔力だけで生み出せないんですか?」
「それはそれで魔力の問題がな……」
魔力だけで生み出した場合、魔力の消費が跳ね上がってしまう。あいにくと俺の魔力はそんなに潤沢ではない。爺の教える魔法はだいたい理屈が分からないから困る。
「さて、いい加減この騒動にも蹴りをつけようじゃないか」
俺は、霧を見据え臨戦態勢を取った。




