第58話 新手
「タイム一階へ行くぞ!」
「この人達はどうするんです?」
「悪いがこのままだ。二階に敵はいないようだし、連れて行くよりマシだろうさ」
俺は部屋を出ると、すぐに一階へ続く中央階段へと向かう。
ホールを見下ろせば、残っていた者たちが二つの集団に分かれて争っていた。一方の集団はグールを彷彿とさせる動きをしている。その足元には先程はなかった血溜まりができていた。
まさか誰かやられたのか。
「どう言うことです!? 時間が経つとまたあっち側に戻っちゃうんですか!?」
「落ち着け、さっきグールになってなかったメイドだって混じってるんだ。そう言うわけじゃないはずだろ。そんなことより二人はどこだ」
目に見える範囲内に二人の姿がない。妙な動きをしている人間を除けば、その場にいるのはラックともう一人の衛兵だけだ。侯爵やメイドの姿も同様に見当たらない。
「とりあえず合流するぞ」
俺達は階段を降り、まともそうな集団へ合流する。
「これは一体どう言うことだ?」
その場に居たラックに問いかける。
「分かりません、突然侯爵様が苦しまれたかと思ったら、いなくなったんです」
「居なくなった?」
「はい、その直後霧のようなものが発生し、その霧に包まれた人達がご覧の有様というわけです」
ラックはそう言って、相手側を視線で示す。
「その霧は、いや、俺と一緒に居た二人はどこだ」
「残りのものは宝物庫へと避難しています。ここは我々が引き受けます。あなたは急いで二人の元へ」
先程までラックに宿っていた迷いが消え失せていた。その事が、俺に二人の身に何かが起こったのだと感じさせる。
「……何かあったのか?」
「リユゼルさんがミントさんをかばって深手を負われたのです」
俺が問いかけると、もう一人が口を開く。
「ソルトさん!」
「分かってる!」
叫ぶタイムを制して、
「霧は霧散して消えたのか?」
「はい、そのまま見えなくなりました。それがどうかしましたか?」
「いや、それなら良いんだ」
てっきり別種の魔物かと思ったが、消えたのであれば杞憂だったらしい。
それならもう聞くことはない。ともかく二人の元へ向かおうと、一歩踏み出した時、周囲の空間が色づき始める。
「二人共避けろ!」
俺は叫びながらその場から飛び退く。
だが、二人の方は間に合わず、現れた霧に包まれてしまった。
「あれが話にあった霧か」
「と言うことは二人も敵になるってことですよね……」
徐々に霧が霧散していく。包まれていた二人は、話にあったように再びグールのような状態となっていた。
「やっぱり!」
「あれは自然のものじゃないな……もしかしてあれが侯爵なのか」
再び周囲に切りが現れ始める。
俺はすぐさまその場から飛び退くと、
「《狂える狂風》」
その場に魔法を発動する。だが、霧は霧散するでもなく、その場へと逗まっていた。
「……まさか霧ですら無いのかよ。くそっ、一先ず二人のところへ行くぞ」
「そんな!? 良いんですか?」
「良いも何も。あんな物相手にしてられるか。あれは神官の奇跡に頼るような代物だ」
俺は広がる霧を避け、壊れた左扉付近の二人を押しのけ、宝物庫へ向かう。
「まさかあれがアルカイドの言ってたボスじゃないだろうな」
ホールを後にした俺は、そう愚痴を零した。




