第57話 疑念
「特に変なところは無いみたいですね」
「そうだな」
二階は寝室や客間が主に配置されているようで、一階と比べ、小さな部屋がいくつあった。まぁ、それでも侯爵の屋敷だ。一般的な宿と比べても十二分に広い。俺達はそれらの部屋を一室ずつ確認していく。だが今の所、誰かが隠れていたり、捕らえられていたりする形跡は見つからない。
「そもそもだ。本当に捕まってんのか?」
俺達は特に確認すること無く飛び出してしまった。確かにあの場に宿の主人達の姿は無かったが、単にどこかに担ぎ込まれていただけ、と言うのは十分ありえる。
「別にそれならその方が良いじゃないですか」
「それもそうだ。ところで、例の反応はまだ感じられないか?」
「そっちもさっぱりです」
先程調べ終えた部屋の方を振り返る。そこは屋敷の左奥隅。高さこそ違うものの、そこは宝物庫の真上のはずだ。
「さっきの部屋は宝物庫の上だったよな?」
「そう言えばそうですね」
「応接室の傍より断然近いな。だとすると……足りないのは条件の方か。人数とかだと厄介だな」
「それならとっくに発動してますよ……。既に発動してるから感じられないとかじゃないですか?」
「……なるほど」
その可能性もあるのか。ただ、少し気負っていただけあって、それではなんとも肩透かしだ。
「物足りないとか思ってませんよね?」
「別に思ってねぇよ。むしろ今は休みが欲しいね」
今後を考えるとあまりそうも言ってはいられないかもしれない。とは言え、とりあえず、今回の一件に関して後のことはオレガノあたりに丸投げしたい。
この街のことはこの街に住んでる人間の手でってな。
「それなら良いですけど」
その後も、俺達は二階の探索を続けていく。一階の時もそうだったが、侯爵の屋敷だけあって、無駄に広い。まぁ、二階なんだから当たり前か。
「左半分は何もなし、と」
左側にある最後の部屋を確認し終え、ドアを閉じる。結果的に何もなかったとは言え、気を抜いて探索するわけにも行かず、神経だけがすり減っていくのだから困りものだ。
「家探しでもしますか? きっと何かありますよ?」
「しねぇよ。お前は俺をどうしたいんだよ。中央階段通らないと帰れないんだぞ?」
「……冗談ですよ。なんで少しやる気見せてるんですか」
俺達は右側へ移動すると、先程と同じ様に部屋を検めて行く。結局二階では大した成果を得ることはできず、残りは後一部屋となった。
「やっぱり誰も居なさそうですね」
「いや、そうでもなさそうだぞ?」
最後の部屋のドア前までやって来た時、中からコトリッと何かが動いたような音が聞こえてきた。俺は慎重に中の様子を窺おうと、ドアに手をかける。だが、ドアには鍵がかかっており、ドアノブは回らない。
「鍵を借りてきましょうか」
「いや、壊しちまおう」
「良いんですか?」
「ああ。緊急事態だからな」
「戻るのが面倒なんですね……」
そんな事はない。そんな事はないが、状況が状況だけにあの侯爵と押し問答している時間は惜しい。
俺は手早く鍵を壊し中の様子を伺う。
すると、そこには宿の主人と、他に数人が床に転がされていた。
他に敵が居ないことを確認し、中へと入り、それらの人々を確認する。
「ただ気絶してるだけみたいだな。意識を失ってるみたいだし、グールってこともないだろう」
「なんでこの人達だけこんな場所に居たんでしょうね?」
「この部屋の持ち主ってのはどう見たってあの侯爵だよな」
「執務室みたいですし、そうじゃないですか?」
タイムの言う通り、部屋の中は明らかに仕事場といった内装だ。もしこの部屋を使うとしたら、侯爵以外には居ないだろう。
「そんな部屋に鍵がかかって、中には人質、か」
「……いえいえ、やましいことがあれば私達を行かせたりしませんって」
「そりゃそうかもしれないが……とは言え、早く戻ったほうが良さそうだな」
まぁアルカイドの野郎の仕業かもしれないしな。
そんな希望的観測を抱いていると、ホールの方から悲鳴が響き渡った。




