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第52話 市街地の戦闘

 音がした方へとやってくると、そこにはオレガノの姿があった。

 オレガノはまるでこれからダンジョンに挑むかの様な重装備で通りを歩いている。オレガノが向かうその先には、壁に叩きつけられ気絶した冒険者の姿があった。

 アンゼリカが危惧していたとおり、やはり前線に出ていたらしい。


「気持ちよく戦ってるところ悪いけど、そこまでだよ」


 あたしは悠々と歩くオレガノに声を掛けた。

 

 伝えるだけで帰ってくれれば手間が省けるんだけど、まぁそんなことはないんだろうね。場合によっては引きずって帰ることも検討しないといけないのかね。


 とはいえ、さすがにギルドマスター相手にそんな真似が出来るとは思えない。説得するのは苦手なんだけどねぇ。


「誰かと思えば、エドガーんとこの……確かフェンネルとリナリアだったな」

「アンゼリカが探してたよ。出来れば素直に帰ってくれるとありがたいさね」


 こちらに気づいたオレガノは、方向転換し、こちらへ近づいてくる。


「悪いがこっちも色々とやることがあんだよ、そっちはお前に任せるって伝えといてくれねぇか」


 オレガノに軽くあしらわれ、当然のようにリナリアがくってかかろうとする。あたしはそんなリナリアを抑えながら、オレガノに語りかけていく。


「もうあんたがギルドへ帰った所で状況は変わらない。そんな事もわからないわけじゃないだろう? どうしてそこまで前に出たがるんだい?」

「俺にだって色々あるんだよ。そんなことより、お前たちはどうなんだ? 他の二人はどうした」

「別行動中だ。二人なら今ソーワート家の屋敷にいる」


 あたしではなくリナリアがそれに答えた。その返答を聞いたオレガノは何やら驚いたように目を見開いている。


「元々あたしらは侯爵家に用があってきたんだ。ソルトが侯爵家にいるからってそんなに驚くことかい?」

「止めろ止めろ、そんな探る様な真似するもんじゃねぇよ。それを聞いて驚く理由なんざ、帰ってきたお前らが一番良く知ってんだろうが」

「やっぱり引き起こした連中を知ってるんだね? なら、あんたが前線に居たがるのは誰を倒せば良いのか知ってるからかい?」


 あたしの質問に、オレガノは何やら迷った様子を見せた。持っていた重剣を肩に担ぎ、明後日の方を見つめて頬を掻く。

 暫く後、迷いを振り払ったのか、まっすぐこちらを見て話し始めた。


「そうだな、知ってるといやぁ知ってるぜ」

「本当か!? だったらすぐ教えてくれ! この街の住人の命がかかってるんだ!」

「まぁそう慌てんな。お前さんはエドガーに聞いていたとおり忙しないな。刻限は夜明けまでだろう? それならまだ十分時間はあんだろ」


 オレガノにそう言われ、焦れてはいるようだが、リナリアは引き下がる。あたしとしても、こんなふざけたゲームはとっとと終わらせたいんだけどね。オレガノにその気がないなら無理に聞き出すことも出来やしない。


「珍しくエドガーのやつが気にかけてた様だからどんな奴らかと思えば、いやいや、なかなか持ってるじゃねぇか」

「は? 一体何を言って……」


 その時、倒れていた冒険者が気づいたらしく、うめき声を上げる。


「折角だから少し揉んでやろうじゃねぇか。ほら、二人とも剣を構えやがれ」

「だから何を言っている! 今はそのような事をしている場合ではない!」

「あん? それこそ何を言ってんだ? 俺を倒すのがお前らの目的の通過点だろうが」


 それと呼応するように、冒険者が「オレガノ……裏切り」と呻く。あたしはすぐさまオレガノから距離を取り、剣を構える。


「お前はどうすんだリナリア。お前らの連れは単独でやってみせたそうだぜ?」

「……人に混ざるグールが」


 リナリアが毒々しく呟き、剣を抜き放つ。


「始めようかひよっこども! アカンサスのギルドマスターが直々に鍛えてやらぁ!」


 オレガノが肩に担いでいた剣を、こちらに突きつける。


 ソルトが一人でやったと言うなら、あたしもあたしも負けてられないさね。


 あたしは剣の柄を握る手に力を込めた。

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