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第51話 市街地捜索

「街の支配者と会うと思うとなんだかドキドキしますね」


 俺の傍では飛び回りながら、タイムがそんな呑気なことを言ってくる。


「諦めろ、そんな穏やかな空気じゃなさそうだぞ」


 扉が破壊されたおかげで、集団の中にこちらへ目を向けているものがいた。目的の侯爵もその一人だ。

 遠目からでも怯えられているのが、手に取るように分かった。


 ホール内を進み近づけば近づくほど、それはよりはっきりと伝わってくる。中には身を捩り、なんとか俺から離れようとしているものさえいる。


 言うまでもなく、彼らの俺に対する第一印象は最悪だ。


「もう……帰りましょうか」

「それ後で召喚されるだけでより面倒になるだろうが」


 小声でそんな事を言ってくるタイムを嗜める。タイムは頬を膨らませると、腕輪の中へと戻っていった。


 こいつ、逃げやがった……。


「どうも、初めまして。えっと……とりあえずその縄を解きましょうか」


 突き刺さる視線を一身に受けつつ提案する。出来るだけにこやかに申し出たが、返ってくる反応は硬い。


『気持ち悪かったんじゃないですか?』

『お前、次に腕輪から出たらどうなるか考えて発言しろよ?』


 まぁしかし、なるほど、あの執事は意識がはっきりしていたせいもあって、きっと普段と変わらなかったんだろう。

 彼らにとっては、何か事情があって自分たちを拘束していたのだ、なんて考えになっている可能性も無くはない。

 そんな執事を俺があっさり消し飛ばしてしまったわけだ。その上、つい先程扉の向こうから同僚の悲鳴が聞こえてきたと。

 

 ……これは当然の反応だな。


『よし、帰ろう』

『今更……』


 「手遅れですよ」と続けてくる。そうだな、ちくしょう。


「君は冒険者の……確かソルトと言ったかな」


 俺がどうやって帰ろうか思案を始めていると、一人の男が口を開いた。小太りの身なりの整った男、恐らく侯爵と目される男だ。


「俺のことをご存知で?」

「ああ、君のことは娘から聞いていたのでね。すまないが、この縄を解いてくれないか」


 俺は言われるまま、侯爵を拘束していた縄を解く。そして、その場にいた人間を順次解放していった。

 その後、これまでの事情を、その場にいたものに説明する。


「そうか、あの子は逝ったか」

「……はい」

「そう構えないでくれ。確かに君に対し思うところがないとは言わない。ただあの男を雇い入れたのは私なのだ。自らが招き入れてしまったことを君のせいにするつもりはない」


 ソーワート卿が力ない笑みを浮かべながらそう言った。


「書斎に君の知り合いもいるのだったね? すまないが、屋敷のものを含め呼んできて貰えないだろうか。リユゼル君も含め、私はその者たちに詫びなければなるまい」


 その言葉に対し、傍に控えていた者達が騒ぎ立てる。だが、ソーワート卿は小さく手を上げ、その者たちを制止した。


 俺は、それに応じ、書斎へとミントちゃん達を呼びに向かった。


◆◇


 リナリアを引き連れ、あたしは街を彷徨っている。アンゼリカに頼まれた、オレガノの捜索を兼ねていたが、一向に成果は上がらない。


 街を巡っているとわかったことだが、趨勢は徐々に傾き始めていた。元々どれだけ強かった人間だろうと、知能が低下してしまえば戦力の低下は免れない。


 その上、向こうは減っていくのに対し、こちら側の人間は徐々に数を増やしていくのだ。最初の山場をしのぎきってしまえば、元々こうなることは自明だったのかも知れない。


「どうやら方が付きつつあるようだな」

「まだ気を抜くんじゃないよ、と言いたいところだけど、そうさね。この分ならあの男が言っていたボスとやらを探すだけさね」


 もっとも、そのボスとやらがまるで検討つかないんだけどね。

 あたしがあの男ならどうするだろう。ボスとやらをグールと一緒に混ぜるだろうか。


 さまよいながらそんな事を考えていると、少し離れた通りから一際大きな音が鳴り響いた。

 

「リナリア!」

「分かっている!」


 あたしは考えを中断し、音のした方へと走り始めた。

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