第50話 一人目の門番
俺は咄嗟に扉を締める。
直後、何かがぶつかったかと思えば、扉が砕け散った。
飛び散る破片を防ぎつつ、俺は慌てて後方へと飛んだ。ドアをぶち破った人影がこちらに追撃を仕掛けてくる。
俺は相手が至近距離まで接近した瞬間、地面に向かって《大気加速》を放ち、相手を地面へと叩きつけ、思い切り上から踏み抜いた。
「タイム! 短剣を大量に出せ!」
言われるまま、タイムが大量に短剣を生成する。
「おまけだ!」
大量の短剣を倒れたままの男へと向かって、床に縫い付けるように《大気加速》で打ち出した。
直前に自由を取り戻した男は、巧みに足を払い除けると、体を回転させてそれを躱す。その後、俺からすばやく距離をとった。
「うわぁ、あんなの避けきれる物なんですね」
「最近遭遇するやつが片っ端からそんなのばっかりで嫌になる。衛兵より強いってどう言うことだよ。平和バンザイ! 俺は平和に暮らしたい!」
「完全に技術の賜物なのが驚きです」
距離をとった男が、服についた埃を払っている。執事服を身に纏った高齢の男。こいつがラックの言っていた執事で間違いあるまい。むしろこれが衛兵だったら、今すぐ服を着替えるべきだ。
特に武器のたぐいは手にしていない。恐らくは徒手空拳、身体こそがこの爺の武器だということだ。
随分と余裕そうじゃないか。ラックを連れてこないで正解だった。俺にさえ付いてこれないようじゃ完全に足手まといになる。
「連携が今ひとつですね。もう少し短縮できるのでは?」
「余計なお世話だよ。それで襲ってきた理由を聞かせて貰いたいね? どう見たってあんたはグールじゃないだろ」
男は年相応の皺は目立つが、肌は人のそれだ。だいたいこいつは普通に喋って、知能も相応みたいじゃないか。これまで出会った奴らとは根本的に異なっている。
「これはこれはおかしな事を、屋敷に侵入した人間を排除するのは執事として当然の事かと」
「こっちはあんたのとこのお嬢様に巻き込まれた被害者だってのに、言ってくれるじゃないか」
「ええ、存じておりますとも」
ぬけぬけと言い捨てる男に俺は苛立ちを覚える。
「もっと想像力を働かせください。想像は人を先へと進ませる進化の翼です。使わなければもったいのうございます」
「知ったことかよ。……いや、そう言うことか。そういやあいつ自身は外見に関しては断言しなかったな」
「ご明察です。もっとも、私の様な者は数が少ないと言っておりましたよ。そして私を見つけた者にこう言えと言っておりました。『今、目の前にいるそれが終わりへ至る道の一つですよ』と」
その言葉の意味を反芻する。
「つまり、あんたは門番の一人ってことか。なら時間をかけてもいられないな」
「ええ、生憎と手加減は出来ませんが、ご健闘を期待しております」
「何か言い残すことは?」
「ご心配は無用に願います。既に済ませておりますので」
「そうかい、じゃあ――さよならだ。《狂える狂風》」
一瞬驚きに包まれた顔をした後、男は笑みを讃え姿を消した。
「名前くらい聞いておくべきだったかな」
「え!? あれなにかを当てないと駄目なんじゃなかったんですか!?」
「さっき思い切り触ったろうが。話を聞き出そうと封じ込めるつもりだったんだよ。まぁ避けられたけどな」
それにしてもこの魔法、先程も思ったが威力が上がっている。どう言う仕組みだ、まったく。
「さて、領主様とご対面と行こうぜ」
タイムにそう言って、俺はホールの扉をくぐった。




