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第49話 領主

「今日一番心が折れた」


 助けたメイドは悲鳴を上げすぐさま走り去っていった。去り際に、書斎へ行くように伝えたが、あの様子では外に走り去っていったかも知れない。

 すぐさま追いかけたが、まさか撒かれるとは思わなかった。恐らく近くの部屋に隠れたんだろう。一見してわからないほどに上手く隠れたのなら、伝えることも伝えたのだし無理に見つけ出す必要もないと断念した。


「ソルトさん少しの間固まってましたからね。それに記憶が残っているそうですし、無理もありません。後は――」


 タイムがじっとこちらを見る。自分の体だ、わざわざ確認しなくても言わんとしていることは分かる。

 グールとして変質してはいても、生物には違いないのだ。

 あんな倒し方をすれば、血液や体液だって当然浴びることになる。

 惨状は推して知るべし。


「さて、気を取り直して左の通路を進むぞ」

「既に廊下には敵はいそうにないのに、それでもそちらへ行くんですね……」

「場所を確認しておくだけだ。念の為な」


 俺達は警戒しつつ、左の通路を進む。特に問題らしい問題は起こらず、あっさり左のホール入口へと到着する。突き当りには左に進む道があり、角からその先を覗き込むと、そこにはやたらと頑丈そうな扉が備え付けられた部屋があった。

 もともとそこに宝物庫があったと言うより、余った部屋を宝物庫に改造した様だった。


「部屋が余る。部屋が余る?」

「そこはどうだって良いじゃないですか……。目の前まで行きますか?」


 奥へ向かう通路には扉が一つしか無い。頑丈そうな施錠もされているようだし、恐らく間違いないだろう。

 そちらの事は置いておき、ホールの方へと視線を戻す。そこには正面ではないにも拘わらず、華美な細工が施された、両開きの扉が備え付けてある。ガラス張りとなっているわけでもなく、ドア越しに中の様子をうかがうと言った真似はできそうにない。


「止めておこう。場所を把握するだけで十分だ。それよりホールの中を探ってくれ」

「えっ、私が行くんですか?」

「あー、まぁそうか、ドア開ければ目立つな。分かった、俺が確認する」


 とは言っても、特に便利な魔法を知っているわけでもない。いや、知ってはいるが、属性に対する適性が足りなくて俺には使えないと言ったほうが正しい。


 俺は仕方なくわずかにドアを開け、その隙間から中の様子を伺う。ラックの言う通り、中は吹き抜けとなっており、中央から奥へと向かって二階へと通じる階段が伸びている。階段は途中から左右に別れ、その先もまた、社交の場として使えるよう開けていた。

 右側しか見えないが、恐らく左右対称となっているのだろう。


 その階段から少し手前の場所に、座り込んでいる集団が見える。その集団は一様に手足を縛られており、自由に動けないようだ。


「なるほど、あの集団の中にいる一際高そうな服を来た男が侯爵様か」


 遠目からでは顔まではよく見えないが、小太りで、髪に白いものが混じった壮年の男。

 人が良さそうな印象を受けるが、仮にも侯爵様だ。早々一筋縄で行く人間でもないだろう。


「男が二人に女が三人……聞いていた話より一人足りないな。どこだ、どこにいる」


 俺が隙間から周囲を窺っていると、突然上方から視界に何かが飛び込んできたのだった。

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