第48話 ホール前の戦闘
正面には衛兵が二人、メイドが二人。
メイドが右手、中央、そして左手に衛兵が一人ずつ、か。
部屋から飛び出すと、頭の中ですばやく状況を整理する。
「ラックはメイドを頼む。衛兵は俺がやる。初手で殺すなよ?」
「心得ていますとも」
俺は後ろに控えるラックに声をかけた後、先程拝借した剣を鞘に入れたまま構え、一気にグールとの距離を詰めていく。
それに気づいた衛兵の一人が、持っていた剣を振り上げた。
「遅ぇ!」
鞘に収めたままの剣で衛兵を殴ると、《大気加速》で俺達のやって来た方向へ、思い切り投げ飛ばした。
「タイム!」
「はい!」
呼びかけた意図を即座に汲み取ったタイムが、遠巻きに投げ飛ばした衛兵を確認している。
俺はそちらをタイムに任せ、もう一人の衛兵へ向かう。
その衛兵も、こちらに気づき遅れて動き出す。視界の隅で、メイドも動き出したのが見えたが、そちらは俺から遅れて接近したラックが上手く抑えている。
俺は衛兵に一当てし、少し距離をとった。
「ソルトさん、こちらは駄目みたいです」
タイムの声を聞き、すぐさま対象との距離を確認する。
距離は十分、投げられるような武器も落としているな。
「念の為結界を張れる準備はしておけよ」
「はい」
「ラックはどうだ?」
「残念ですが、こちらも……」
「となると、無事なのは目の前の一人だけか」
眼の前の衛兵が変化を始めたのを確認し、ラックの方へと視線を向ける。
見れば、ラックは武器も持たないメイドに手こずっていた。
メイドが強いのではない。ラック自身の問題だ。顔見知りであるという事実が足枷となり、一線を越えることを躊躇わせていた。
「ラック、もういい、後は俺がやる」
「……申し訳ありません」
俺はメイド二人に目を向ける。既に面影は感じ取れないが、身につけている髪留めから、その者たちがまだ若かったのだと思わせる。
念の為一当てした後、二人の頭部を切り落とした。
「……もう一人だったな」
衛兵が間近まで迫っていたが、やはり武器を持っていない。殴りかかるつもりらしく、拳を振りかぶっている。だが、動作が大きく、まるでなっていない。
その拳をあっさり躱し、速やかに衛兵を打倒した。
ラックの方へ視線を戻せば、もとに戻った衛兵の傍で膝をついていた。
「すみません、すみません」としきりに呟いている。
これだ、このふざけたゲームで一番厄介なのは心が潰れることだ。ここからすぐに心を奮い立たせられる人間はそう多くない。少なくとも時間が必要だ。
ましてや、この先同じことが繰り返されるのである。どれだけ心が摩耗するのかわかったものではない。
「ラック、その人を連れて書斎へ戻ってくれ。ここでもたついてれば他が集まってきかねないからな」
「そんな……自分はまだやれます」
僅かなりとも意志の力が込もっている。もしかすれば、彼はすぐに立ち直れるかも知れない。だが、
「良いんだよ。知り合いに手をかけるなんて経験、せずに済むならそれに越したことはないだろう? なに、侯爵様を救出した勲功と一緒に俺が貰っておいてやる。良いからとっとと行け」
ラックに向けて追い払うようにしっしっと手を動かす。ラックはもう一度「すみません」と口にすると、男を担いで書斎へと向かって行った。
「ソルトさん、そんなに手柄が欲しいんですか?」
「当たり前だろ? 俺は物欲の権化だぞ? なんせこの先、平和な世界で生きていくにはもっと金が必要だからな」
大きく息を吐き、左右を確認する。左右の廊下から二人ずつ、こちらへと近づいてきている。
「……ここでやるしかなさそうだな」
救いがあるとすれば、他にはやって来ていないということだ。楽観的になるのは危ういが、もしかするとこれで打ち止めかも知れないと思うと、多少心が軽くなる。
その後、俺は新たに二人切り伏せることとなった。




