第44話 目的地
男はラック、メイドの方はルーナと言うらしい。俺は二人に現在の状況を簡潔に説明する。
二人共一様に表情は暗い。その様子から、俺の話をどうやら信じて貰えたらしい。
「てっきり与太話と一蹴されるもんだと思ってたよ」
「……実はぼんやりとですが記憶があるのです。それに……」
俺のぼやきにラックが答える。最後まで口にはしなかったが、もう一人の男――テナンへと視線を向けた事で、おおよそ察せられた。
最悪、敵対されることも危惧していた俺としては非常に助かる。しかし、一方でアルカイドへの嫌悪がさらに積み上がる。
ぼんやりとでも記憶に残っているとなると、例え助かったとしても、今後この街で暮らしていくには支障が出るかもしれない。いや、間違いなく出る。
それも狙ってのことであれば、本当に性質の悪いやつだ。
ルーナが先程よりラックの影に隠れ、こちらに怯えている理由も氷解した。そりゃあ、ただでさえ屋敷の外の人間である上、自分を跳ね飛ばした人間と仲良くしたいとは思えまい。
「それで、あなたはこれからどうするんですか?」
「説明した通りだよ。まずはそこのタイムが感じ取った、妙な感覚の正体を確かめに行くつもりだ。非常事態と思って、見逃して貰えると助かるんだが」
「ええ、それはもちろん。ただ、出来れば侯爵様の救出に力を貸しては頂けないでしょうか」
ラックがそんな提案をしてくる。当然といえば当然のことだ。何しろ彼らの主人であり、この街を預かる人間でもある。最優先されて然るべきだろう。
「実はそっちも探してるんだ。だがあいにく居場所がわからない。ラックは侯爵が捕らえられていそうな場所に心当たりはあるのか?」
「どこかに捕らえられていると言うことですと、屋敷のホールが最も可能性が高いと思います」
ホール、ホールと言ったか。この屋敷そんなものまであるのかよ。侯爵ともなれば社交の場を設けたりしないといけないのか?
「どうかされましたか?」
「ああいや、何でもない。それでそのホールってのはどっちにあるんだ?」
そんなに変な顔をしていただろうか。心配そうに尋ねられてしまった。俺はごまかす様に質問する。
「あちらですか? そうですね、応接室、ホール、それと宝物庫でしょうか」
「となると、怪しいのはホールか」
タイムのやつが「てっきり宝物庫に行きたがると思ってました」などと小さな声で呟いている。
宝物庫なんて行きたがるわけ無いだろう。自分のものにならない上に、変な疑い持たれた日には人生詰みかねないからな。
「わかった。そういう事ならホールへ向かおう。どうやら俺の目的もそこみたいだしな」
「……あ、あの……私は」
不安そうにルーナが口を開く。さすがに連れて行くわけにも行かない。となれば、隠れて貰うより他ないだろう。
「実は仲間が書斎に隠れてるんだ。戦えるわけじゃないんだが、一人でいるよりは幾分マシなはずだ。悪いがそこに一緒に隠れていてほしい。もちろんそこまでは送らせてもらうよ」
「……わかりました」
ルーナが弱々しい声で返事をする。相変わらず、ラックに隠れるように発言している。どうやら完全に嫌われてしまったらしい。
「そういうことであれば急ぎましょう。可能な限り早くホールの様子を確認したいのです」
「ああ、わかった」
俺達はルーナを送り届けるため、一旦二人のいる書斎へと一旦戻ることにするのだった。




