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第43話 グール

 グールを発見したタイムは、すぐさま俺のもとへ戻ってきている。こちらに見向きもせず徘徊を続けているので、今の所、気づかれてはいないらしい。


「衛兵が二人に、メイドが一人か。手前がメイドなのが面倒だな」


 衛兵が一番近いのであれば、釣りだして処理していけば良い。もし疑似グールであれば、こちらの戦力として期待できる。だが、メイドがそうならこちらは戦力ダウンである。


「出来るだけ魔法も使いたくないんだよな」

「言っておきますけど、この間使った魔法は今は無理ですからね」

「わかってるよ、能力自体は上がってるんだ。あの程度なら力押しでいけるはずだ」


 見たところ、それぞれの動きは、生きていた頃と変わっている様には見えない。メイドの動きは他の二人と比べて明らかに劣っている。その動きの差異で両者を見分けられないかと考えていたが、どうやらこれでは無理そうだ。

 おまけに、衛兵二人は武器を手にしたままだ。もしかすると、それを扱う程度の知能は保っているのかもしれない。


「しょうがない、素直に手前から攻めるか。タイム、小さな欠片を頼む」

「既に売ろうって気ありませんよね。良いですけど」


 タイムは呆れながら、小石大の銅の欠片を生成し、俺に放ってきた。そう言えば腕輪の外にいる時だと、頼むのは初めてかもしれない。


 腕輪から出してるんじゃなかったのかよ……。


 俺は受け取った欠片を、一番手前を徘徊するメイドの頭部へ放り投げる。欠片は見事メイドの額に命中した。すると、


「ソルトさん、一番遠くにいた人がこっち見てますけど」

「何故だ、そんな大きな音はしなかったろ? ってまずい」


 奥のグールが手に持っていた剣を振りかぶり、こちらへ投げつけようとしていた。そのまま下に投げつけるのならば問題はないが、射線上でメイドが徘徊している。このままでは確実に剣がメイドを捉えるだろう。

 俺はダガーを構え慌てて飛び出す。それと同時に衛兵が剣を投射した。


「タイム!」

「はい!」


 俺の呼びかけに応え、タイムが結界で剣を弾く。


 これは飛び出さなくても良かったんじゃないか。


 そんなことを思いつつ、俺は体当たりでメイドを壁に叩きつける。その間に近づいてきていた衛兵が、剣を振り上げていた。俺は振り下ろされる剣戟を、ダガーで逸し、衛兵の体を蹴り飛ばした。衛兵の持っていた剣が、先程剣を手放したもうひとりの衛兵の足元へ転がる。


「ソルトさん、メイドの人は偽物みたいですよ!」

「よりによってそいつかよ、いや、無事で何よりだよ! 畜生め!」


 俺は追撃をやめ、距離を取ろうと動く。だが、目の前の衛兵はこちらを追ってこない。衛兵は床に転がった剣を拾い上げ、近くに倒れた衛兵に振り上げる。


「まさかあっちもか!? くそっ!」


 俺は舌打ちしながら、《大気加速(エアロ・ブースト)》を発動し、一気に距離を詰める。その勢いのまま、衛兵を殴り飛ばした。

 殴り飛ばした衛兵が、よろめきながら立ち上がる。どうやらあいつだけは本物らしい。

 ただ、こうも偽物が続くと、今のは単に衝撃が弱かったんじゃないのかと勘ぐってしまう。


 もしかしたらそういうのも狙ってやがるのか? だとすれば全く性質(たち)が悪い。


 一つ一つの行動に意を決する必要があるなど、精神の消耗がとんでもない。俺は念を入れて、衛兵をもう一度壁に叩きつける。

 それでも変化しないのを見届けてから、相手の剣を使い首を切り落とした。すると、衛兵はニ、三度体を震わせ、その後動かなくなった。


「これで倒せないようならどうしようかと思ったが、無事倒せるようで安心したよ」

「でもソルトさんのダガーだと、それは難しいですよね」

「……そうだな。このまま剣を借りていくか」


 俺は剣と鞘を回収し、腰に挿した。普段あまり使わないせいで、違和感があるが、背に腹は代えられない。

 その後、倒れたままの二人の状態を確認する。二人共顔色は元に戻り、呼吸もしっかりしているようだ。


「若い男と若い女ね、まぁ不幸中の幸いってとこか」


 グールだった方の衛兵は初老の男だ。痛ましいことではあるが、若い人間よりは幾分か精神衛生上マシである。


「さて、こいつらどうしたもんかね」


 俺がぼやくと、まるでそれが呼び水となった様に、それぞれがうめき声を上げ始める。


「……とりあえずは説明だな。まさかこれを延々繰り返すんじゃないだろうな」

「……その可能性はありますね」


 先々のことに思いを馳せ、俺は頭を抱えるのだった。

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