第42話 探索
部屋を出て、隠し扉のあった部屋へと戻ってきた。
出来れば、地下へと向かう扉は閉じておきたいが、操作方法がわからず断念する。
扉を背にし、ドアの外を伺うが、グールの姿は見当たらなかった。
「それで結局どこへ向かうんですか?」
そんな中、タイムが当然の疑問を口にする。
「そうだな、出来れば一階の何処かが良いだろうな。逃走経路の確保しやすい場所、もしくは立て籠もってもある程度しのげる場所、そういう部屋に心当たりはないか」
俺はリユルゼに尋ねたが、リユルゼは「ごめん」と言って首を横に振った。
「んー、下手に動き回るより、ここに隠れていた方が安全じゃないですか? 幸いここは隠れる場所や、ドアを塞ぐ物には事欠きませんし。まずはソルトさんだけで確認して回ったほうが安全だと思います」
タイムの言うことには一理ある。確かに本棚もあれば机もあるこの場所であれば、簡単なバリケードを築くことだって可能だろう。だが、やはり二人をここに残していくのにはどうしても不安が残る。
その不安が顔に出ていたのだろう。ミントちゃんとリユルゼは、お互いに顔を向けあって頷くと、俺に語りかけてきた。
「私達なら大丈夫だよ。ソルト君はやることがあるんでしょ?」
「領主様も捕まってるんだよね? だったらあなたは領主様を助けてあげて」
二人が覚悟を持って言っているのは伝わってくる。だが、容易に同意できることでもない。
「……わかった。二人は俺が出ていったら、どうにかドアを塞いでくれ。出来れば地下への入り口もな。あと……そうだな、合言葉を決めておこう」
俺は少し迷った後、覚悟を決めた。若い連中が腹を括ったっていうのに、いい歳した俺がいつまでもうじうじ迷っているのは格好がつかない。
「合言葉?」
「例えばソルトさんが嫌いな食べ物とか」
「何でだよ。まぁそれでも良いが、そうだなニードの実か」
「ソルト君……それ食べ物じゃないよ? 毒があるよね?」
「毒を抜けば食えるんだぞ? スカスカで渋みがエグいんだよ」
毒の方は麻痺薬になったり、麻酔にも使えたりと割と重宝する代物だ。毒を抜いたあとならば食べても大丈夫だと、爺に言われ、興味本位で口に運んだのが間違いだった。
口の中全体に渋みが広がり、その後数時間何を口にしてもまともに味がしなかった。
今にして思えば、わざと俺が興味をもつように誘導していた様に思う。とんでもない爺である。
「えっと、それで私達がニードの実って答えれば良いんだね?」
「いや、答えるのは俺達の方だ。二人は俺達に質問してくれればいい」
「あっ、そうだね。わかった」
「じゃあ行ってくる、くれぐれも用心してくれ」
「それはこっちのセリフ。頼んだよ」
「無事に帰ってきてね? 絶対だからね」
「ああ任せておけ」
俺は二人にそう言うと、書斎を後にする。
『それで、どこに向かうんですか?』
書斎を出ると、頭の中にタイムの声が響いてきた。気づけばタイムはいつの間にか腕輪に戻っている。おそらく、書斎を出るタイミングで潜り込んだのだろう。
「何当然のように腕輪に戻ってやがる。さっきも言ったようにお前が先行するんだよ」
『嫌です! 二人がいないならソルトさんだけで十分じゃないですか! それにこの屋敷ほとんど直線だからどの道私が先行しても殆ど変わりませんよ!』
「却下だ。同じ見つかるなら的は小さい方が良いだろ? それに咄嗟に結界を張れるタイムの方が融通がきく」
俺がきっぱり断言すると、タイムは渋々腕輪から姿を表した。恨めしそうにこちらを見ているが、それに取り合うつもりはない。
「それで、どこへ向かうかだったな。まずは俺達が最初に通された応接室へ向かう。厳密にはタイムが何かを感じ取った場所だな」
「先に領主様を助けに行かなくても良いんですか?」
「どこに捕まってるかわからないしな。それならどうせ一階から制圧するんだし、わかってる場所から向かうとしようぜ」
それに、領主が捕らえられているとすれば、その周囲はきっと厳重な警戒が敷かれているはずだ。可能であればそれまでに、幾ばくかの戦力を削いでおきたい。
「なるほど、確か――!? ソルトさん、止まってください」
応接室へと続く廊下の角を曲がろうとした時、タイムが呼び止める。
タイムの指示を受け、俺はすぐに停止し、背を壁につけた。
「数は三、グールです」
慎重に角の向こうを覗き込めば、確かにタイムの言う通り、廊下を徘徊するグールの姿がそこにあった。




