第40話 冒険者ギルドへ
ソルトと分かれたあたし達は、真っ直ぐに屋敷の出口へと向かう。
眠っていた衛兵が動きだし、辺りを徘徊しているかと勘ぐっていたが、今のところ一人たりとも遭遇していない。
出来るなら屋敷の中で、味方を増やしておきたかった。そうすればソルトのやつも楽に動ける。だがそううまくもいかないらしい。
こっちが会いたい時に会えないってのも落ち着かないもんだね。
「どうするんだ? 衛兵を探すのか?」
こちらが苛立っているのを察したらしく、リナリアが心配そうに問いかけてくる。
あたしはそれに対し首を横に振った。
「ギルドへ急ぐよ。あっちの方はソルトを信じることにするさね」
「そうか、それなら良い」
あたし達は、屋敷の玄関で一旦止まり、外の様子をうかがう。
「近くにはいないようだな」
「妙だね、近くにいた連中もいなくなっているってのはどう言うことだい?」
屋敷周辺の目に映る範囲内には人影はない。
「意識のない人間が無作為に動いてるなら、もっと目についてもいいと思わないかい?」
ここに来る途中、何人も眠っていた人間がいたはずだ。だと言うのに、人の影が見当たらない。
「冒険者が襲われる……なるほど、もしかすると」
「そうか、この近くに!」
リナリアが突然走り始める。こちらは一瞬反応が遅れた。だが、自分でも驚くほど、あっさりリナリアに追いついた。
あたしはリナリアに追いつくと、その手首を掴む。
「離せ! 貴様だって気づいているはずだ! 近くで襲われているかもしれないのだろう? ならば放っておけるものか!」
「待ちな。大量にいたらどうするつもりだい。あんたが一人で行っても囲まれるのが落ちさね」
「だから何だというのだ! 例えその場で倒れようとも見捨てるより遥かにマシだ!」
リナリアが手を振りほどこうと、必死にもがく。
「落ち着きな。あんたのそれは単なる自己満足さね。助けに来たけどやっぱり駄目だったなんて笑い話にもならないよ。下手に希望をもたせるだけで尚の事たちが悪い」
「それは……そうかもしれないが」
それを聞き、リナリアの抵抗が弱まる。
「だから、あたしも一緒に行くさね」
「……良いのか?」
「……良くはないね。あいつはそれを含めて見捨てろって言ったんだ。この状況で情報が集まるだろう冒険者ギルドに、一刻も早く情報を引き渡せってね」
リナリアが俯いて歯を食いしばる。助けながら進めばその分だけ伝達が遅れることになる。それが何を意味するか、リナリアも察したのだろう。
「すまない。先を急ごう」
「良いのかい?」
「ああ」
「なに、あたしらが繋いでた馬もいないようだし、案外それに乗って逃げたのかも知れないよ」
「そうだな……いや、待てなら私達はどうするのだ!?」
あたしは、頬に手を当て考える。リナリアは周囲を見回しているが、何も見つからなかったらしく、肩を落としていた。
「しょがないね。私が背負っていくさね」
「身長差がだな……それだと私は引きづられてしまうんだが」
「じゃあ肩車だね。ほら、もたもたしてないでさっさと乗りな」
リナリアが渋々肩にまたがる。その両足をしっかり固定し、あたしは冒険者ギルドに走り始めた。




