第26話 親切からの罠
「煽ってるように見えますかね」
「そうは言わねぇが無神経には思うかもな」
俺は姉さんとミントちゃんを改めて見比べる。確かに二人を姉妹ではないと言い張るには無理があるかも知れない。そもそも気持ちの問題なのだ、仮にその言い訳がまかり通った所で何の意味もない。
ただでさえ気落ちしているのに、仲の良さそうな姉妹の姿を見せつける事は、確かにオレガノの言うとおりだ。
「それなら話は簡単さね。行く場所は二箇所あるんだ。あたしとミントが別れて行けばいいさね」
「なるほど、たしかにそれなら問題ねぇな」
姉さんの提案にオレガノが便乗する。見た所、リナリアも乗り気の様だ。タイムとミントちゃんは口をだすつもりはないらしい。
少し落ち着いて考えよう。パーティーを分けるとしてその選択肢はどうだ? リナリアはきっとソーワート侯爵家の方へ行くことを譲らない。実際貴族としての身分が保証されているリナリアはいた方が良いのは分かる。そうなると、それに付き添うのは姉さん以外にない。実質これ選択肢がないのでは。
この二人で貴族のところへ行って大丈夫だろうか、姉さんは俺より礼儀が出来ていない。リナリアは人間的に問題ありだ。
……これはないな。戻ってきたら二人が投獄されていたでは洒落にならない。
「やっぱこう言うのは全員で行くべきじゃないか? 貴族と渡りをつけられる機会なんてめったにないしな」
「……エドガー様も私も貴族なのだが」
俺がそれっぽい理由を口にする。
それを聞いたリナリアが愚痴をこぼす。俺はそれを黙殺した。
「それだと効率が悪いさね。あんただってこの街で時間を浪費してられないだろう?」
「ぐっ、それはそうなんだが」
この街で滞在できる期間は精々が、一週間がいいところだ。それ以降では赤字となってしまう。
今は多少余裕はあるが、魔法を行使する際の魔力の消費量を考えれば、可能な限りタイムに渡しておきたい。そのためにも赤字は出したくない。
「お前ら、ソーワート家への紹介状と、クラリスんとこの家の地図くらいは用意してやるから、そういうのは外でやれ」
揉め始めたのを見て、オレガノは呆れて俺達を部屋から追い出した。
自分で火種を起こしておいて……と言いたい所だが、あのままだと何も考えず訪ねていただろう。
そうならなかったのは、実にありがたい。
その後、俺達はギルドの受付でアンゼリカから、紹介状と地図を受け取る。
「そう言えば、クラリスの妹はなんて名前なんだ?」
「それならリユゼルちゃんですね」
「リユゼル、リユゼルね。なるほど、助かったよ。ありがとう」
アンゼリカに礼を言って、俺達はギルドの隅の邪魔にならない場所へ移動する。
「それで、結局二手に別れるんですか?」
「そう言う揉めそうな事は一旦置いておいてだ。とりあえず宿を探そう。今日中に全部が終わるわけじゃないしな」
「それでしたら《静寂の囁き亭》がお勧めですよ。きっと気に入って頂けると思います」
俺達がそんな事を話していると、受付からアンゼリカが声をかけてきた。酒場が併設されていないせいか、このギルドは見た所人の出入りが少ない。時間帯によっては混んでいるのかも知れないが、少なくとも今は暇なのだろう。
「何か名物みたいなものがあるんですか?」
声をかけてきた、アンゼリカにミントちゃんが尋ねる。アンゼリカは頬に手を当て少し困った口調で返事をしてきた。
「んー、そう言う訳ではないんですけど……。でも、特にこれと言ったものはありませんけど、料理はどれも美味しいですよ。きっと皆さんにとっても有意義だと思います」
「へぇ、そこまで言うならそこにしようかね。構わないね?」
「ああ、異論はない」
まず、リナリアが同意し、俺を含めた他の面々も同意する。
「では、地図をお渡ししますね」
「ああ、どうも」
俺はアンゼリカから店の地図を受け取った。
「(紙ってそれなりに高価だと思うんだけど、余ってるのかな?)」
ミントちゃんが耳打ちしてくる。
「(そりゃ余るだろうな。書類の書き損じみたいだし)」
「(そっか……それは余るね)」
元々字の書ける人間なんてそう多くはない。その癖、冒険者なんて人種はやたら面子にこだわったりするので、書けもしないのに書けると言ってしまう人間がやたら多い。そのせいで書き損じが増えてしまうのだろう。
その書き損じを流用するのはどうかと思わなくもないが、記入箇所なんて名前しか無いのだから、そこを切り取ってしまえば後は定形の文章だ。特に問題もないのだろう。
「さて、とっとと宿へ向かおうぜ」
俺達は冒険者ギルドを出ると、アンゼリカに渡された地図を頼りに《静寂の囁き亭》へと向かった。
場所は大通りに面しており、特に迷うこともなく辿り着くことが出来た。
「地図、別にいらなかったんじゃないですか?」
「ほら、ああ言うのは過剰なくらいが丁度いいんだよ。親切で申し出たのに辿り着けなかったとか、文句言われたらイラっとするだろう?」
「まさか、そんな人いるわけないよ。ソルト君はすぐそうやって冗談言うんだから」
ミントちゃんが笑いながら言った。その言葉は冷や汗をかいて目を逸らしているやつに、もう一度言ってやれば良いと思う。
「こ、ここであっているのだろう? 早く入ろう」
件の人物が率先して宿の中へと入っていく。俺達も続いて宿へと入る。
すると、店の奥の方から「いらっしゃいませ」と少女の声が聞こえてきた。
「ソルトさん、あの子って」
「おう、確かにに有意義だよ」
完全にしてやられた格好である。ギルドの連中は冒険者を罠にかける趣味でもあるのだろうか。
せめてもう少し心の準備をさせて欲しい。
そこにいたのは、ギルドから走り去った少女――リユゼルだった。




