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第24話 港町の少女

 俺達は乗合馬車に揺られ、アカンサスへと向かっていた。複数台が連なって進み、護衛の冒険者が馬車の近くに寄り添って進んでいる。

 車内ではリナリアのやつが死んだように虚空を見つめていた。時折ビクリと体を震わせては、周囲をキョロキョロと見回している。一体エドガーに何をやられたのか、俺も少し気になってきた。

 御者のすぐ後ろに座しているため、そんなリナリアを見て御者が気味悪がっていた。俺は心の中で、エールを送っておく。


 一方、姉さんとミントちゃんは、馬車の向こうに流れていく景色を見てはしゃいでいる。めったに家から出られないこともあって、その光景が珍しいのだろう。幸運なことに、この馬車には俺達の他に客もおらず、周囲に迷惑をかけることもないので、そっとしておこう。

 そんな二人の姿を見ている俺に、タイムが問いかけてくる。


『本当にミントさんを連れてきても良かったんですか?』

『あまり良くはないな。とは言え、姉さんの気持ちも分からないわけでもないからな』


 ミントちゃんを連れてきた理由を尋ねたら、「偶には気分転換をさせてやりたい」などと言っていた。

 それが嘘だとは言わないが、全てがそうと言うわけでもないだろう。目を合わそうとしなかったのは、きっと色々混ざりあった、後ろめたい部分があったからだ。


『フェンネルさんの気持ちですか?』

『変な奴らに目をつけられてるのに、町に一人で残すのも不安なんだろ。幸い今回は危険な依頼でもない。まぁ盗賊くらいなら出るかも知れないが、今の俺達ならそのくらいなんとかできるだろうさ』

『知ってますよ、それ伝説の盗賊とかが出てくる予兆ですね!』

『……そいつらはこんな田舎に陣取ってないで、もっと町へ行くべきだろ』


 でも、もし出たら逃げよう。


『まぁミントちゃんを連れてきたのはきっとそんな所だろうよ』

『なるほど、そうなんですね』

『そうそう、忘れてた。向こうに着いたら腕輪から出てきていいぞ』

『ほんとですか!?』


 タイムが嬉しそうに声を上げた。本当は姉さん達に混ざりたかったのかも知れない。


『元々北の洞窟であった事を極力隠しておきたいってのがあったんだが、もう今更だからな』


 洞窟のことはもうほとんどバレてしまっている。

 隠しておけば不意打ちの機会もあるかも知れないが、その為にタイムを閉じ込めておくのは、あまり気乗りしなかった。

 ならば、今後もタイムを隠し通す理由も特にない。伏せておくのは能力と弱点だけで良いはずだ。


『きゃっふー』


 その後、アカンサスへ到着するまで、事あるごとにタイムが頭の中で騒ぐのだった。


◆◇


 野営の際、花を摘みに行こうとしたら、全員に止められた、などと言う一幕もあったが、概ね滞りなく俺達はアカンサスへと到着した。


 しょうがなかったんだ。護衛の冒険者から、蜜が美味い食用の花が近くに群生してるって聞いたら、もう行くしか無いじゃないか。

 その後、俺はミントちゃんから説教を受ける羽目になった。最初、「ちょっと花を摘みに行ってくる」って言ったら「え、はい、どうぞ」って言ってくれたのに!

 「食べ物のことになると知能下がりますよね」等とタイムに言われたのは屈辱である。


 閑話休題。


 アカンサスは侯爵が住まう街、と言っても特に王都の様な城がそびえ立っているわけではない。西側の一角に一際大きな領主の館があり、そこから海に沿って弧を描くように街が広がっている。

 街の東端には高台があり、そこから街を一望できるのだという。


 タイムは街につくや否や、すぐに腕輪から飛び出し、空に上っていった。

 付近は人で賑わっているが、特に気にされた様子はない。


 この規模の街と慣れば魔道士の使い魔も多いはずだ。そのせいもあって、あまり気にならないのかも知れない。


 街から入って少し行った先に、露店が立ち並んでいるのが見える。

 姉さんとミントちゃんは早速、近くの露店を覗いていた。


「ソルトさんソルトさん、すごく広いですよ。バニカムよりずっと広いです」

「当然だ。ここはセンティッドでも五本の指に入るほど大きな街だからな」


 はしゃぐタイムに、俺ではなくリナリアが答えた。


「リナリアさんに胸を張って言われると、なんだか微妙に思えてきますね」

「何故だ!?」

「日頃の行いだろうな」

「ぐぬぬ」

「ほら、あんた達、馬鹿やってないでまずはギルドへ向かうよ」

 

 いつの間にか戻ってきていた姉さんに促され、俺達はこの街のギルドへ向かうことにした。


 侯爵の館が西側にあることもあり、侯爵の家臣たちは西側に住まい、平民は東側に居を構えている。

 アカンサスのギルドは東側に位置していた。


 俺達がギルドの前へとやってくると、何やらギルドの中が騒がしい。


「そんな……嘘よ!」


 そんな声が聞こえたかと思うと、一人の少女がギルドを飛び出していく。

 通りを駆けていく少女の後ろ姿を見て、俺は何やら嫌な予感がするのだった。


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